クジラ類のヒレの中には「祖先の5本指」の名残りが
手の骨は11月20日、ブラジル南東部サンパウロ州のイーリャ・コンプリーダ(Ilha Comprida)にある海岸で発見されました。
レティシア・ゴメス・サンチャゴ(Leticia Gomes Santiago)さんとデバニール・ソウザ(Devanir Souza)さんのカップルは、浜辺を散歩していたところ、砂に埋もれた奇妙な異物に気付いたという。
それを掘り返してみると、非常に長い5本の指を持つ大きな手の骨が出てきたのです。
2人はすぐにその不気味な骨を携帯で撮影し、横にビーチサンダルを置いて、大きさを比べたりしました。
サンチャゴさんは「まるでETの手のようで、何の動物のものか全く見当がつきませんでした」と話しています。
その後、2人は地元住民から「これは普通じゃないから、生物学者のところに持って行った方がいい」とアドバイスを受け、その地域の研究機関であるカナネイア研究所(IPEC)に連絡しました。
画像を見た海洋生物学者のエリック・コミン(Eric Comin)氏は、一目でそれをクジラ類(cetacean)の手の骨であると見抜いています。
よく知られている通り、クジラ類のヒレの中にはかつて陸上にいた四肢動物の祖先の名残りである5本の指の骨格が隠されています。
そのサイズからおそらく、クジラよりイルカの手の可能性が高いとし、骨の腐敗や分解具合から死後1年半は経過しているとコミン氏は指摘しました。
ただし、この骨がクジラ類のどの種のものかを特定するには、より詳細な分析が必要であると付け加えています。
約5000万年前のクジラ類の祖先は、4つ足の大型犬ほどのサイズで地上に暮らしていました。
当然ながら、そのときの手足は他の哺乳類と同じく、歩行に便利な5本指を持っていました。
この原始クジラとして知られる「パキケトゥス」は進化の過程で陸を離れ、少しずつ水中に適応し、最終的には完全な水中生活へ戻ったと考えられています。
全ての生命は海で誕生し、その一部が陸へと進出しましたが、そこから再び海に戻った点でクジラ類は、進化史において非常にユニークな位置を占めています。
海から陸に上がって、もう一度海に戻った生物は他に知られていません。
その後、クジラ類は水中生活の中で徐々に4つ足を失くし、ヒレを進化させたのですが、陸上時代の5本指はそのままヒレの中に残されました。
クジラ類のヒレは単に指に分かれた骨を持つだけでありません。ヒレの肉を落としていくと5本指の手が出てくるそうです。
今回ブラジルで見つかった骨も、何らかのクジラ類の遺体が腐食した後に残された手の骨格の一つと考えられますが、こうして海岸に流れ着いた手の骨だけを見るとさすがに驚いてしまいます。