核融合発電の基本原理
核融合発電で期待されている反応を一行でまとめるならば
『2つの水素を合わせて1つのヘリウムを作る』
というものになります。
2つの水素を太陽の中心のような極めて高温高圧の条件に置くと、圧力によって2つの水素が融合を起こして、莫大なエネルギーを放出しながらヘリウムへと変化することができるからです。
そして核融合発電では、この莫大なエネルギーを電力に変換することを目指しています。
しかし核融合に使われる水素には、実はいくつかの種類が存在するのです。
核融合の登場人物たち
水素の種類の違いは、上の図のように、結合している中性子の数の違いによります。
陽子が1つだけで中性子がくっついていないのは軽水素、陽子1つと中性子1つが結びついた重水素、陽子1つと中性子2つが結びついているのが三重水素となっています。
それぞれの水素を構成する陽子や中性子の数は質量を反映しており、軽水素に比べて重水素は2倍、三重水素は3倍の質量を持っています。
また含まれている中性子数の違いは、それぞれの水素の性質の違いとなって現れ、どんな水素の組み合わせを燃料に使うかで、核融合の進行も大きく違ってきます。
しかし、なぜ核融合を起こすだけで、莫大なエネルギーが放出されるのでしょうか?
莫大なエネルギーの元は質量
莫大なエネルギーの出元は質量です。
2つの水素で核融合を起こして1つのヘリウムを生成すると、そのヘリウムの質量は2つの水素の合計質量より1%弱ほど減少する「質量欠損」を起こることが知られています。
たとえば陽子1つ、中性子1つの重水素2つを融合して、ヘリウム4を作る場合、核融合前の質量が4.03188amuであるのに、核融合後の質量は4.0015amuに減少してしまいます(amu:原子質量単位)。
(※融合で質量欠損が起きるのは鉄までで、それより重い元素では逆に核分裂したときの方が質量が減少します。そのため核分裂でエネルギーを取り出す原子力発電が成立します)
アインシュタインの特殊相対性理論によって、質量とエネルギーは等価であることが知られており、有名な「E(エネルギー)=m(質量)×c(光速)²」の公式で示されています。
この式をみると、質量に光速を二乗した値がエネルギーに変化することがわかるでしょう。
莫大なエネルギーが放出されるのは、失われる質量が僅かであっても、かけ合わされる光速の値が非常に大きいからなのです。
太陽と核融合発電の仕組みは微妙に異なる
核融合発電は地上に太陽を作る技術であるとよく言われています。
しかし太陽で起こっていることをそのまま核融合発電で再現することはできません。
というのも、核融合発電と太陽では、元々の燃料となる水素の種類が違うからです。
核融合発電では主に重水素や三重水素の使用が想定されていますが太陽の場合、燃料とする水素は主に陽子1つからなる軽水素です。
また反応過程も微妙に異なり、まず最初に2つの軽水素の融合が起こり、2つの陽子の一方が中性子化して重水素が作られる過程が追加されます。
最初の軽水素同士が融合する過程でも質量欠損が起こり大きなエネルギーが発生するため、普通の水素(軽水素)を燃料にするのは一見するとお得に思えるかもしれません。
しかし2つの陽子から重水素が作られる過程は極めて遅く、平均反応時間はなんと140億年にものぼります。
太陽の年齢が現在約46億年で、寿命は100億年程度のため、140億年という時間を疑問に思った人もいるかも知れません。
しかしこれは平均反応時間なので必ずしも太陽の中のすべての軽水素の核融合に140億年がかかるというわけではありません。
反応時間にはばらつきがあり、太陽に含まれる軽水素の量は莫大なため平均反応時間の遅さは太陽においては問題になりません。
ただ、これは地球上で利用する核融合発電には向きません。
そのため既存の核融合実験では、より反応速度に優れた、陽子1個に加えて中性子が1個が含まれる重水素や、陽子1個に中性子が2個含まれている三重水素が燃料に用いられています。
今回の研究で行われた核融合は、重水素と三重水素を材料にヘリウム4と1個の中性子を作る反応となっています。
重水素と三重水素を用いた核融合で得られるエネルギーは、同じ質量のウランを用いた核分裂よりも4.5倍、同質量の石油を燃やした時に得られるエネルギーの8000万倍にも及びます。
そんな夢のような核融合技術は、現在どのように進展しているのでしょうか?