人がいないと伸び伸び採食できるように
野生動物にとって採食は、生きていく上で最も重要な行動の一つです。
そのため、人や天敵に見つかることなく、いかに効率的に食料を得られるかを模索しなければなりません。
特に日本の都市部に暮らすタヌキとニホンアナグマは、これまでの研究で、人目を避けるように採食することで都市の環境に適応していることが示唆されています。
しかし、コロナ禍に伴う人間活動の減少が、これらの動物の行動にどんな影響を及ぼしているかはよく分かっていませんでした。
そこで研究チームは、2020年のコロナ禍において、東京都三鷹市の森林に暮らすタヌキとニホンアナグマを対象に、自動撮影カメラを用いて「落下果実の採食行動(※)」を調査。
このデータをコロナ以前の2019年の行動と比較しました。
※ ここでは、樹木から落下したイチョウとムクノキの果実を地面で食べる行動を指す。
データ分析の結果、2019年には、タヌキで計397回(イチョウで316回、ムクノキで81回)、ニホンアナグマで計144回(イチョウで12回、ムクノキで132回)の落下果実の採食行動を確認。
それに対し、2020年には、タヌキで計411回(イチョウで324回、ムクノキで87回)、ニホンアナグマで計173回(イチョウで18回、ムクノキで155回)の落下果実の採食行動が観察されました。
こう見ると全体的な回数は大して変わっていませんが、注目すべきは、2019年の採食行動が両種ともに真夜中に行われることがほとんどだったのに対し、2020年には昼間に採食する機会が顕著に増えていたことです。
加えて、落下した果実を食べるために訪れた際の1回あたりの採食時間は、両種ともに2020年の方が長くなる傾向にありました。
さらに両種が採食を行う場所として、2019年には、果実の実りの多い木ではなく、藪(やぶ)や茂みの中など、木の根元が周囲から見えづらい場所を選ぶ傾向がありました。
ところが2020年には、周囲から見通しが良くても、結実量の多い木を選ぶようになっていたのです。
結実量の多い木は効率よく食料を得る上で最適な場所ですが、コロナ以前のタヌキとニホンアナグマはそれよりも人目につきづらい場所を選んでいました。
これは効率よく食べることよりも人間に発見されないことの優先順位が高かった可能性を示唆します。
しかし、2020年のコロナ禍で人間活動が減ったことで、昼間でも結実量の多い木の下でのびのびと採食ができるようになっていたのです。
以上の結果から、都市部に生息するタヌキとニホンアナグマは人間の行動変化に敏感に反応していることが明らかになりました。
人が多いときは夜間や見通しの悪い場所で採食し、人がいなくなると昼間や結実量の多さを優先させるなど、彼らの食事スタイルは私たちの活動量の増減を基軸としているようです。
今回の結果についてチームは「日本各地では少子高齢化に伴い人間活動が急激に低下する地域が多く発生すると予想されており、本研究の成果は、そういった地域での野生動物の管理や保全を考える上でも重要な知見になる」と述べています。