水中と陸上の両方で生きられる植物とは?
今から約4億5000万年前、水中にいた藻類の一部が地上に進出したことで陸上植物が誕生しました。
これらの植物は陸地の乾燥に耐えるため、「クチクラ層」という脂質ポリマーで自らを覆うようになります。
加えて、光合成に必要な二酸化炭素を取り込むべく、葉っぱに「気孔」を開けるよう進化しました。
よって、陸上植物を水に沈めると気孔が塞がれるので、空気の出し入れ(ガス交換)ができずに枯れてしまいます。
その一方で、陸上の空気が肌に合わなかったのか、再び水の中に戻ったグループがいます。
「水草」です。
水草の多くはクチクラ層や気孔を持ちませんが、水の中にわずかに溶け込んだ二酸化炭素を葉表面から取り込み、拡散することでガス交換を行います。
これによって、水草も水中で光合成ができるのです。
私たちには植物が陸上でも水中でもあまり変わらないように見えますが、実際は動物のエラ呼吸と肺呼吸のような違いがあり、通常の植物は陸でも水中でも暮らせるようにはできていません。
ところが驚くことに、そのどちらの環境でも生き延びられる植物が存在します。
⽔陸両⽣植物 (amphibiousplant)と呼ばれるグループです。
これらは河川や湖沼などの水辺に自生し、水没すると水草のように、干上がると陸上植物のように適応することができます。
中でも、アブラナ科の一種で北米を原産とする「ロリッパ・アクアティカ(Rorippa aquatica)」(以下、ロリッパと表記)は、水に沈むと葉っぱを細くし、気孔を閉じて、水中に適した体に変化するのです。
そもそも陸上で生まれ育ったロリッパは気孔を持った葉(気中葉)を作ります。
反対に、最初から水中で育ったロリッパは気孔のない葉(水中葉)を持ちます。
そこで研究チームは今回、陸上で育てたロリッパを水没させて、葉がどう変化するかを観察しました。
すると成長中の若い葉では、水没の直後に気孔の発生が抑制され始め、気中葉から水中葉の転換が起こったのです。
だいたい4日後には葉の気孔が大きく減少していました。
植物においては普通、一度できた気孔がなくなることはありません。
ロリッパにおいても、気中葉として成熟した葉は、気孔を減らして⽔中葉になることがありませんでした。
ところが、未成熟の葉では水没に反応して水中モードへと変化できたのです。
そこでチームは次に、気孔の抑制がどのように生じて、水中モードに変化するかを解明することにしました。