水鉄砲に乗せて「わが子」を発射していた⁈
研究チームは今春、ポーランドにあるビアワ・タルノフスカ(Biała Tarnowska)川で生態調査をしていたところ、川縁で水鉄砲を放つユニオ・クラッススを発見しました。
ユニオ・クラッススは主にヨーロッパと西アジアに分布する淡水イガイです。
チームはこのような突飛な行動を取るイガイ類を見たことがなかったため、非常に驚き、詳しく調査をすることにしました。
観察の結果、複数のイガイが同じように川縁まで移動して身体を地面に固定し、後端部だけを水面に出してピューッと水鉄砲を放ったのです。
そのサイクルは平均3〜6時間も続き、約1メートルもの飛距離が出ていました。
実際の映像がこちら。
チームが捕獲したイガイを調べてみると、そのすべてがメスでした。
春先はちょうど産卵シーズンに当たるため、水鉄砲も繁殖と何らかの関係があると予想されます。
そこでメスが放つ水鉄砲のサンプルを採取して分析したところ、なんと水の中に微小なイガイの幼生がたくさん含まれていたのです。
では、なぜメスの母親たちは水鉄砲に乗せて我が子を発射しているのでしょう?
それにはイガイのライフサイクルが関係しています。
繁殖シーズンになると、オスの成体が水中で精子を散布し、それをメスが体内に取り込みます。
取り込まれた精子はメスの中で卵と受精し、グロキディア(Glochidia)と呼ばれる幼生を産んで水中に放ちます。
そしてここが大事なのですが、水中に放たれた幼生は魚のエラに付着して寄生生活へと入るのです。
エラの中で幼生のステージを終えたイガイは徐々に貝らしく成長して宿主から離れ、大人と同じような底生生活に移ります。
しかしユニオ・クラッススはなぜ幼生を放つ際に、水中で散布するのではなく、わざわざ川岸へ移動して空中へと飛ばすのでしょう?
これについて、研究主任のデヴィッド・アルドリッジ(David Aldridge)氏は「2つのメリットがある」と指摘します。
1つは、空中から降り注ぐ水鉄砲により水面が攪拌されることで、宿主となる魚がその場に集まりやすいこと。
これは今回の研究中でも確認されており、水鉄砲の落下スポットに宿主の魚が集まりやすくなっていました。
もう1つは、水中ではなく空中に放つことで幼生をより遠くまで飛ばせることです。
本種が宿主とできる魚は他のイガイ類と異なり、コイ科の小型淡水魚であるヒメハヤやチャブなど、非常に種が限られていることが知られています。
つまりユニオ・クラッススのメスは、自分の子どもたちが適切な宿主に付着できる確率を高めるために空中へ水鉄砲を撃っていると考えられるのです。
アルドリッジ氏は「頭も脳もないイガイが春になると川縁に移動し、水を川面に向かって発射するなんて誰が予想できたでしょう? 実にすごいことです!」と興奮気味に話しました。
また、ユニオ・クラッススは20世紀から大幅に個体数が減少していると報告されており、現在は絶滅危惧種に指定されていますが、今回の特殊な行動はその理由を説明できるかもしれないといいます。
というのもメスは春先に決まって川縁に上がるため、ミンクのような陸上の捕食者に狙われやすくなっている可能性があるのです。
チームは今後、本種のライフサイクルをさらに詳しく理解することで、変化する環境下での保全に役立てたいと述べています。