前方を向けるよう「眼窩の角度」が調節されていた!
CTスキャンの結果、まず分かったのは長大な剣歯のせいで顔の前面に両目を置くスペースがなかったことでした。
先に言ったように、ティラコスミルスの剣歯は一生成長しつづけるため、成熟個体になると、剣歯の根元が頭蓋骨の上部にまで達していました。
つまり、鼻筋から額を通って頭部まで伸びる剣歯によって目が顔の外側に追いやられたのです。
さらにチームは、他の絶滅および現生の肉食哺乳類の頭蓋骨をスキャンし、目の配置から、左右の視野が重なる角度を比較しました。
すると他の捕食者ではだいたい50〜65度だったのに対し、ティラコスミルスはわずか35度に留まったのです。
下図の左からティラコスミルス、スミロドン(サーベルタイガーの一種)、ティラコレオ(絶滅したフクロライオン)、フクロオオカミです。
目が横方向についているならば、この角度では相当寄り目にしなければ正面を見ることは難しい印象を受けます。
では、やはりティラコスミルスは前方への立体視はできなかったのでしょうか?
しかし研究主任のシャルレーヌ・ガイヤール (Charlène Gaillard)氏は「良好な立体視は、単に目の配置だけでなく、眼窩内の眼球をどれだけ前方に向けられるかにも依存する」と指摘します。
そこでティラコスミルスの眼窩の角度を調べたところ、他の捕食者に比べて、眼窩が外側に突き出し、顔の側面とほぼ垂直に(つまり前方に)向いていることが分かったのです。
これにより眼窩内の眼球を可能な限り前方に向けられると推定されました。
下図は上からティラコスミルス、ティラコレオ、スミロドンです。
これを考慮した結果、ティラコスミルスの視野の重なりは70度近くに達すると算出されました。
同チームのアナリア・フォラシエピ(Analia Forasiepi)氏は「これは明らかに活発な捕食者として成功するのに十分な視野である」と述べています。
となるとティラコスミルスは、捕食者と被食者の両方を兼ね備えた優れた視野の持ち主だったのかもしれません。