ティラコスミルスの復元イメージ
ティラコスミルスの復元イメージ / Credit: Jorge Blanco – Ancient “Marsupial Sabertooth” Likely Saw in 3D(AMNH, 2023)
paleontology

捕食者なのに草食獣のように目が左右に離れていた絶滅哺乳類の不思議!

2023.03.26 Sunday

ティラコスミルス (Thylacosmilus)は、約300万年前に絶滅した肉食の哺乳類です。

サーベルタイガーと同じ長大な剣歯を持つ一方で、目が顔の左右に離れて付いていることが知られていました。

これはトラやチーターのような捕食者ではなく、ウシやガゼルのような被食者に見られる特徴です。

両目が顔の前面にあることは、獲物の位置や距離感を把握するのに役立つ「立体視(3D)」に欠かせません。

彼らはこの視覚的な難点をどう補っていたのか、アメリカ自然史博物館(AMNH)の研究チームは調査を開始。

その結果、ティラコスミルスは眼窩(眼球を納めているソケット)を顔の前方に突き出して、立体視を補っていたことが分かったのです。

研究の詳細は、2023年3月21日付で科学雑誌『Communications Biology』に掲載されています。

How the ‘marsupial sabertooth’ thylacosmilus saw its world https://phys.org/news/2023-03-marsupial-sabertooth-thylacosmilus-world.html Ancient marsupial sabertooth had eyes like no other mammal predator https://www.livescience.com/ancient-marsupial-sabertooth-had-eyes-like-no-other-mammal-predator Ancient “Marsupial Sabertooth” Likely Saw in 3D https://www.amnh.org/explore/news-blogs/research-posts/ancient-marsupial-sabertooth-likely-saw-in-3d
Seeing through the eyes of the sabertooth Thylacosmilus atrox (Metatheria, Sparassodonta) https://www.nature.com/articles/s42003-023-04624-5

捕食者なのに「左右の目」が離れて付いていた?

まずはティラコスミルスがどんな動物だったのか押さえておきましょう。

彼らはカンガルーやオポッサムを代表とする有袋類に近縁な「砕歯(さいし)目」というグループに属していました。

砕歯目は肉食性の強い哺乳類の一群であり、今日ではすでに絶滅しています。

ティラコスミルスは約700万〜300万年前の南アメリカに生息し、全長1.2〜1.7メートル、体重は100キロ前後、最大だと150キロに達しました。

サーベルタイガーと同様の長大な剣歯を持ちますが、彼らの牙は私たちの髪の毛のように一生涯にわたって伸び続ける「無根歯(むこんし)」だったようです。

また面白いことに、下アゴが下方に伸びており、剣歯を納める鞘のようになっていたことが化石から明らかになっています。

ティラコスミルスの頭蓋骨のイメージ
ティラコスミルスの頭蓋骨のイメージ / Credit: Jorge Blanco(phys, 2023)

このようにユニークな特徴の多い動物ですが、中でも特に注目されるのは両目が左右に離れて位置していることです。

これは捕食性の哺乳類とは一線を画す点です。

通常、チーターやライオン、ネコのような捕食者は両目が顔の前方に付いており、獲物の位置や距離感、奥行きを把捉するのに役立つ立体視(3D)を可能にしています。

対して、ガゼルやウシ、ウマのような草食の被食者は、左右の目が外側に離れて付いていることがほとんどです。

これは視野を広げて、天敵の接近をいち早く察知するメリットがありますが、前方の立体視には劣ります。

チーターが目が前方に、ガゼルは目が外向きに離れている
チーターが目が前方に、ガゼルは目が外向きに離れている / Credit: canva

よってティラコスミルスは目の配置が草食の被食者に近いので、前方の立体視ができなかった可能性があるのです。

そこで研究チームは、約300万年前に絶滅した「ティラコスミルス・アトロックス(Thylacosmilus atrox)」の頭蓋骨をCTスキャンして、立体視できたかどうかを探ることにしました。

次ページ前方を向けるよう「眼窩の角度」が調節されていた!

<

1

2

>

人気記事ランキング

  • TODAY
  • WEEK
  • MONTH

Amazonお買い得品ランキング

古生物のニュースpaleontology news

もっと見る

役立つ科学情報

注目の科学ニュースpick up !!