捕食者なのに「左右の目」が離れて付いていた?
まずはティラコスミルスがどんな動物だったのか押さえておきましょう。
彼らはカンガルーやオポッサムを代表とする有袋類に近縁な「砕歯(さいし)目」というグループに属していました。
砕歯目は肉食性の強い哺乳類の一群であり、今日ではすでに絶滅しています。
ティラコスミルスは約700万〜300万年前の南アメリカに生息し、全長1.2〜1.7メートル、体重は100キロ前後、最大だと150キロに達しました。
サーベルタイガーと同様の長大な剣歯を持ちますが、彼らの牙は私たちの髪の毛のように一生涯にわたって伸び続ける「無根歯(むこんし)」だったようです。
また面白いことに、下アゴが下方に伸びており、剣歯を納める鞘のようになっていたことが化石から明らかになっています。
このようにユニークな特徴の多い動物ですが、中でも特に注目されるのは両目が左右に離れて位置していることです。
これは捕食性の哺乳類とは一線を画す点です。
通常、チーターやライオン、ネコのような捕食者は両目が顔の前方に付いており、獲物の位置や距離感、奥行きを把捉するのに役立つ立体視(3D)を可能にしています。
対して、ガゼルやウシ、ウマのような草食の被食者は、左右の目が外側に離れて付いていることがほとんどです。
これは視野を広げて、天敵の接近をいち早く察知するメリットがありますが、前方の立体視には劣ります。
よってティラコスミルスは目の配置が草食の被食者に近いので、前方の立体視ができなかった可能性があるのです。
そこで研究チームは、約300万年前に絶滅した「ティラコスミルス・アトロックス(Thylacosmilus atrox)」の頭蓋骨をCTスキャンして、立体視できたかどうかを探ることにしました。