夜勤による睡眠不足は健康リスクを増加させるが…
日本やイギリスを含む多くの国では現在、公的機関の職員の最大25%が何らかの形で夜間勤務に従事しています。
夜勤による睡眠不足や概日リズムの乱れは、うつ病・心臓病・2型糖尿病などの健康リスクを増大させる大きな要因です。
また夜勤を終えて朝〜昼まで眠れたとしても、結局は9時5時勤務の人たちより睡眠時間が短いことが広く報告されています。
その一方で、世の中には「夜型人間」を自認する人がたくさんいるのをご存知でしょう。
これらの人々は昼間より夜間の方が活発であり、深夜に仕事をしたり、ネットサーフィンを存分に楽しむことができます。
先行研究では、「自分は夜型である」と自己申告した人ほど、夜間勤務に適応しやすく、睡眠不足による心身への悪影響も少ないことが示唆されています。
そこで研究チームは今回、「夜型」が遺伝的因子によるものなのか、またそうだとすれば、夜型遺伝子は睡眠不足に対しどれだけの保護効果を持つのかを調べることにしました。
「夜型遺伝子」を持っていれば睡眠不足もヘッチャラ?
イギリスの大規模遺伝子データベースである「UKバイオバンク」を利用し、2006年から2018年の間に5万3211人の登録者を調べ、「夜型」に対する遺伝的傾向があるかどうかを調査しました。
ここでは3つのデータを分析対象としています。
1つ目は自己申告によるクロノタイプ(朝型か夜型か)の評価で、それと並行して、対象者を「夜勤をしていない・ほとんどしない・時々する・常にしている」に分類しました。
2つ目はウェアラブル装置による時間帯ごとの身体活動の記録。
そして3つ目はDNAです。対象者の遺伝子データから夜型の遺伝子マーカーがあるかどうかを探ります。
そしてデータ分析の結果、まず全体として、夜勤の頻度が高い人ほど睡眠時間が短いことが分かりました。
常に夜勤をする人は、夜勤をしない人に比べて、睡眠時間が一晩あたり平均13分(3.5%)少なかったようです。
この結果は、以前に報告された「夜間勤務者は昼間勤務者より睡眠時間が平均15分短く、不眠症や仕事中の居眠りのリスクが高くなる」という先行研究と一致します。
ところが驚くことに、遺伝的に「夜型」の傾向が強い人は、夜勤前に長く寝ておくことで睡眠不足の影響が軽減し、夜勤後の回復も早いことが確認されたのです。
チームは先の3つのデータにもとづき、「夜型」についての多遺伝子スコアを各人に割り当てました。
多遺伝子スコアとは、個人が持つ特定の疾患の発症リスクを高めるすべての遺伝子変異をスコア化して、その病気の発症や進展を予測する手法のこと。
今回の場合は、遺伝的にどれだけ夜型人間になりやすいかをスコア化しています。
すると常に夜勤をしている人は、夜型の遺伝子スコアが高い場合、睡眠不足による弊害が大幅に軽減されることが示されたのです。
数字に換算すると、1スコア上昇するごとに平均4分の睡眠時間が追加されました。
夜型の遺伝子スコアが最も高い人では、一晩あたり約27分の睡眠報酬を得ていたのです。
こうした人々は睡眠時間を少し削っても心身への悪影響を受けにくいと考えられます。
これは夜型遺伝子が睡眠不足に対するある程度の保護効果を持つことを示しています。
また、以上の結果に男女間の性差は見られませんでした。
研究主任のメリンダ・ミルズ(Melinda Mills)氏は「夜勤労働者には共通して健康リスクがあると考えられていましたが、私たちの研究は、その影響の大きさが個人の遺伝子によって異なることを示している」と指摘。
その上で「今後、介入策を考案する際には、個々人の遺伝的特性を考慮する必要があるかもしれない」と話しました。
夜の世界で生きられるかどうかは、夜型遺伝子を持っているかどうかに左右されるようです。