星系外縁部への高速輸送を実現する「ペレット推進システム」
現在NASAをはじめとした各国の宇宙機関により、太陽系内の各所に迅速な到達を可能にする、画期的な推進システムが提案されています。
たとえばNASAと国防高等研究計画局(DARPA)によって推進される原子力推進システムでは、最短で45日で火星への到達を目指しています。
しかし太陽圏の外縁などより遠方に宇宙船を運ぶには、宇宙船内部に燃料タンクを備える従来型の方式は上手く機能しません。
搭載燃料を多くしても宇宙船の重量がかさんで加速率が低下してしまう、というジレンマが存在するからです。
そのため近年では宇宙船に燃料を積むのではなく、地球から発せられる指向性エネルギーを使って宇宙船を押し、目的とする速度まで加速させる方法が有力視されるようになってきました。
たとえば4.25光年先のプロキシマケンタウリに探査機を送る「スターライトプロジェクト」では、手のひらサイズの帆を持つ小型軽量宇宙船にレーザーを当て続けることで、最終的に光速の30%まで加速させることを目指しています。
(※光は質量はないものの運動量は持っているため、命中した物体を押すことが可能です)
一方、ペレット推進システムが主に目指すのは、太陽から550~880天文単位(0.0087~0.0139光年)の位置にある、太陽重力レンズ(SGL)の観測地点に天体望遠鏡を運ぶことです。
太陽重力レンズは、上の図のように、太陽の重力による光の屈折を望遠鏡のレンズのように利用することで、遠くの天体の詳細な画像を取得することが可能になります。
やや壮大な言い方をすれば、太陽規模の望遠レンズを使ったのと同じと言えるでしょう。
その効果は凄まじく、100光年離れた天体でも10平方kmほどの解像度が得られるようになると考えられています。
4.25光年先のプロキシマケンタウリを回る地球型惑星ならば、地表の様子をより詳細に「見る」ことができるでしょう。
上の図は太陽から650天文単位(0.0103光年)の位置に望遠鏡を置いてプロキシマケンタウリの地球型惑星がどのようにみえるかを、予想したものになります。
予想図からわかるように、この規模の精度になると、もし海や陸地があった場合には、はっきりとその存在を確認できることになるでしょう。
問題は、550~880天文単位(0.0087~0.0139光年)の位置にどうやって望遠鏡を運ぶかです。
先に述べた通り、燃料を内部に搭載するタイプの宇宙船では、この距離に到達するには膨大な時間を要してしまいます。
理論上地球から火星まで45日間で到達できる原子力推進システムでも、550天文単位を踏破するには130年もの期間を要してしまいます。
これでは時間がかかりすぎてしまいます。
そこでカリフォルニア大学の研究者たちは、レーザーを帆に受けて推進するスターライトプロジェクトを参考に「ペレット推進システム」を考案しました。
この推進システムには上の図のように2隻の宇宙船が必要とされます。
1隻目は地球近傍に位置しており、粒子を発射する役割を果たします。
発射される粒子はレーザーによって加熱され、プラズマ状態になってさらに加速され放出されます。
(※このプロセスはレーザーアブレーションとして知られています)
計画ではこの方法で粒子を毎秒120㎞まで加速し、2隻目の宇宙船に衝突させることになっています。
発射される粒子は光に比べて速度は劣りますが重量をもつため、圧倒的に大きな運動量を伝達することが可能であり、重たい宇宙船を加速させることが可能になります。
またビーム(粒子)はレーザー(光子)に比べて宇宙空間でも減衰しにくいため、効率の面でも優れています。
そのため計画では、10メガワットのレーザービームを使うことで、およそ1トンの宇宙船を1年で30天文単位、5年で150天文単位、15年で500天文単位の位置まで到達させられるとしています。
太陽重力レンズを使用するためには550天文単位の位置に到達する必要がありますが、この速度(15年で500天文単位)ならば、20年以内にその位置に望遠鏡を送り込むことが可能になるでしょう。