子供の10人に1人が「食物アレルギー」を発症している
私たちの体は普段、体内に侵入してきた細菌やウイルスなどの異物を免疫系が攻撃し排除することで病気から身を守っています。
しかしある食品が体内に入ってきたときに、免疫系がこれを「異物」と誤認して過剰に反応してしまうことがあります。
これが「食物アレルギー」です。
主な症状には、皮膚の湿疹やじんましん、目の粘膜の腫れ、嘔吐や下痢が挙げられます。
食物アレルギーの60%以上は卵・牛乳・小麦が占め、次いで甲殻類や果物・ナッツ類の割合が多いです。
また日本を含む一部の先進諸国では現在、10人に1人以上の子供が食物アレルギーと診断されており、その発症率は年々増加の一途をたどっています。
アレルギー発症の原因には遺伝子や環境因子など様々な要因が考えられますが、近年になって指摘され始めているのは「衛生意識の過剰な高まり」です。
子供をできる限り不衛生な環境から遠ざけようとするのが親心というものですが、専門家いわく、これが子供の免疫力に異常を起こしているといいます。
反対に以前の研究では、妊婦や乳幼児が犬や農作物に多く触れているほど、食物アレルギーの発症リスクが低下する可能性が示唆されていました。
そこで研究チームは今回、ペットの存在と子供の食物アレルギーの関連性をより詳しく理解すべく、日本全国の9万7413人の母子を対象とした「日本の環境と子どもに関する調査データ」をもとに分析を行いました。
室内で犬や猫を飼っている家庭ほど「食物アレルギー」になりにくい
チームはその中から、妊娠中および乳幼児期(0〜3歳)におけるペットへの曝露と食物アレルギーの正確なデータが得られた子供6万6215人を対象としています。
そのうち、約22%の子供が何らかのペット(最も多いのは室内犬と猫)にさらされていました。
そして分析の結果、室内犬や猫にさらされていた子供では、ペットを飼っていない子供に比べて、食物アレルギーの発症率が有意に低くなっていたのです。
特に卵・牛乳・ナッツのアレルギーは室内犬に接している子供ほど有意に低く、卵・小麦・大豆のアレルギーは室内の猫に接している子供ほど有意に低くなっていました。
一方、室外で犬を飼っている場合は、食物アレルギーの発症リスクに低下は見られなかったとのことです。
こう見ると、室内犬や猫に触れている子供ほど食物アレルギーが少なくなっていることが分かります。
しかし、今回の研究では、まだ説明のついていない問題も存在します。
魚・甲殻類・果物・蕎麦のアレルギーはペットの有無と関係していませんでした。
またカメや鳥のペットでは食物アレルギーとの有意な関連性は見られませんでした。
さらに不思議なことに、ハムスターを飼っている家庭(全体の0.9%)では子供の逆にナッツアレルギーの発症率が有意に高くなっていたのです。
なぜこのような結果が見られるのかは、まだよくわかっていません。
今回の結果はあくまでアンケート調査によって集められたデータにおける、相関関係を示しただけに過ぎず、ペットの有無と食物アレルギーの間に隠された因果関係はまだ解明されていません。
それでも現在の「衛生仮説(hygiene hypothesis)」では、幼少期に微生物との接触が多いほどアレルギー疾患の予防に有効であると指摘されています。
衛生仮説では先程述べたように、身の回りを清潔にしすぎたり、除菌や消毒をしすぎると、免疫力に異常が発生する可能性が高くなり、反対に日頃から自然な免疫力で対処できる程度の菌に接していれば免疫系は強まり、風邪や病気になりにくくなると考えられています。
勝てるレベルの相手(雑菌)で練習試合を重ねていけば、免疫系が強化され正しい機能を発揮できるようになるだろうというのがその根拠です。
食物アレルギーは、本来免疫系が対処するべきでない物質に対して免疫系が過剰反応している状態です。
衛生仮説では、その理由を免疫系が本来対処すべき物質について学習が不足しているためではないかと考えています。
私たちの周辺にいる細菌のほとんどは有害性の低いものばかりです。
するとペットの犬や猫は、子供が勝てる程度の練習相手(雑菌)を室内にばら撒いてくれるため、食物アレルギーのリスクも下がるのかもしれません。
今回の報告はあくまでアンケートによる統計調査の結果であり、衛生仮説はまだ確証の得られた理論ではありません。
しかし、食物アレルギーの発症は子供の人生に影響を及ぼすものなので、子供の健康のために注意して見ておくべき情報かもしれません。