コレクションの中から「謎の卵」を発見!
2011年、オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)は標本コレクションの中から、赤ちゃんザメの胚が入ったままの奇妙な卵を発見しました。
その卵は西オーストラリア沖で採取されたこと以外、確かな情報は記載されていません。
サメの種の大半は母体から直接子供を産む「胎生」ですが、残りは卵を産む「卵生」です。
それを踏まえた上での調査で、この奇妙な卵がヘラザメ属のものであることはすぐに分かりましたが、種類までは特定できませんでした。
あらゆるヘラザメの卵と比べてみても該当するものが見つからなかったのです。
ヘラザメ属は現生するサメの中でカラスザメ属に次いで大きなグループであり、世界中の海から約40種類が確認されています。
そもそも分類が難しいことで知られ、1980年代から確かな証拠もない安易な新種報告が相次いでいました。
こちらが問題の卵です。
卵には縦縞の隆起が見られ、先端には海藻に固定するための触覚が見られます。
その後、10年以上にわたり未解決のまま放置されていましたが、最近になってCSIROの傘下にあるオーストラリア国立魚類コレクション(ANFC)で、まったく同じ形状をした卵標本が2つ発見されました。
この卵も採取地が西オーストラリア沖である他は謎であったため、科学的に知られていない新種の線が濃厚になってきたのです。
同じ形の卵を妊娠しているメス標本が見つかる!
そこで研究チームは、卵の採取地と同じ西オーストラリア沖で見つかったヘラザメの中で、種類が特定されていない標本がないかどうかを膨大なコレクションデータベースの中から探しました。
その結果、奇跡的なことに、まったく同じ形状の卵を妊娠しているメスのヘラザメの標本が見つかったのです。
このメスは体長46.7センチで、1992年に西オーストラリア沖で捕獲されたものの、種類が判然としないまま保管されていました。
また光沢のある真っ白い瞳を持っており、この特徴は他のサメ種には見られません。
CSIROの魚類学者で研究主任のウィル・ホワイト(Will White)氏は「唯一、ニューカレドニアとパプアニューギニアに分布するヘラザメ種(Apristurus nakayai)のみが同様の白目を持っている」と話します。
このように既知のヘラザメには見られない形態や卵の特徴から、めでたく新種として記載されました。
学名はラテン語で「卵」を意味する「オヴィ(ovi)」と、卵の縦縞が「シワシワ(corrugatus)」に見えることから、「アプリストゥルス・オヴィコルガトゥス(Apristurus ovicorrugatus=シワシワ卵を産むヘラザメ)」と命名されています。
ホワイト氏は「私たちが見つけたメスの標本が、幸運にも同じ形状の卵を妊娠していたことで長年の疑問が解決できた」とした上で、「種の識別における卵の形状の重要性が改めて浮き彫りになった」と述べています。
オーストラリアでは現在、一般市民が撮影したサメ卵の画像をデーターベースにアップすることで、産卵期のサメがどこで繁殖しているかを科学者たちがよりよく理解できるようなシステムが確立されています。
さらに、その後の調査で新種のA. オヴィコルガトゥスの生きた卵がサンゴに付着していることが確認され、本種の繁殖がサンゴの生態系に依存している可能性が示唆されました。
チームは今後、新種の生きた個体の調査を進めるとともに、コレクションの中に他に見落としている新種がいないかどうかを探していく予定です。