タコにも「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」がある?
タコは複雑な脳神経と高い認知能力を持ち、イカと並んで非常に賢い生き物であることが知られています。
近年ではタコの睡眠に関する研究が進んでおり、2021年にはタコが「活動的な睡眠」と「静かな睡眠」の2パターンを繰り返しながら寝ていることが分かりました(iScience, 2021)。
これは私たちが毎晩「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」を繰り返しているのに似ています。
さらにタコは活動的な睡眠中に体色を目まぐるしく変化させることも判明しました。
体色の変化は普通、天敵に遭遇したときのカモフラージュや仲間とのコミュニケーションにしか使われません。
そのため、研究者らは「タコは人間でいうレム睡眠にあたる活動的な睡眠時に夢を見ている可能性が高い」と考えているのです。
こちらは睡眠中に体色を変化させるタコの様子。
最近では、タコが夢を見ていることは専門家の間でも意見の一致するところとなってきました。
そんな中、ロックフェラー大の新たな研究により「タコは悪夢も見ている」可能性が示されたのです。
睡眠中に突然もがき苦しみ、タコスミをぶちまける
研究チームは先だって、ブラジル沖に分布するマダコ(Octopus insularis)のオスを捕獲し、「コステロ(Costello)」と名づけて水槽内で飼育していました。
ある朝、研究者が実験室に入ると、水槽内がタコスミで黒く濁っていることに気づいたのです。
そこでチームは水槽の側にカメラを設置し、1カ月にわたり24時間体制でコステロを撮影しました。
映像を確認したところ、そこには今まで見たことのないタコの睡眠行動が映されていたのです。
コステロがいつものように静かに眠っていたところ、突如としてもがき苦しみ始め、8本の足をうねらせながらのた打ちまわったのです。
この奇妙な行動は1カ月の間に計4回(44秒〜290秒)確認され、うち2回では体色の変化とタコスミの噴射も見られました。
こちらがそのときの様子。
研究主任のエリック・エンジェル・ラモス(Eric Angel Ramos)氏は「本当に異様な光景でした。コステロは文字通り、もがき苦しんでいるように見えたからです」と話します。
しかし、その異常行動がおさまった後は何事もなかったかのように目を覚まし、いつも通りの一日を始めたという。
ラモス氏は、コステロの行動はタコが野生下で捕食者に遭遇したときの逃走や防御、カモフラージュ行動と合致すると説明します。
このことから、コステロは睡眠中に天敵に襲われるような「悪夢を見ていた可能性」が浮上したのです。
こうした行動が今まで見つかっていなかった理由について、ラモス氏は「ほとんど研究所は飼育タコを365日24時間体制で監視していないため、見逃されてきたのではないか」と述べました。
一方で、この見解については他の解釈も考えられ、悪夢と断定するのは時期尚早であるとの意見もあります。