プラゴミと海藻の混じった海域は生物が少ない「海の砂漠」
なぜプラゴミと海藻が交じり合った世界に、恐ろしい病原性を秘めた細菌たちが住んでいるのか?
研究者たちは謎に応えるために、プラゴミと海藻と魚が入り混じった複雑なモデルを提唱しています。
浮遊性の海藻は排水などの栄養をもとに大繁殖しましたが、陸から離れた洋上は栄養的に貧しい「海の砂漠」であり、彼らが生命活動を維持するための窒素やリンが足りません。
そこで栄養的に貧しい海域の浮遊性海藻は、窒素やリンを自分たちを食べに寄ってきた魚の糞や死体から得ることになります。
そこに介入してきたのがプラゴミに付着したビブリオ菌です。
ビブリオ菌のプラゴミに対する反応を調べた研究では、ビブリオ菌が数分以内にプラスチックを探し出して、積極的に付着することがわかっています。
プラゴミと海藻が絡み合う領域に魚がやってきてくると、お腹を空かせた魚たちは海藻を食べようと口をあけ、一緒にプラスチック片を飲み込みます。
こうして魚たちはプラスチック片と一緒に病原性のあるビブリオ菌を飲み込んで感染してしまいます。
すると魚はビブリオ菌によって下痢になったり腸壁に孔が開いて消化物が外に漏れだす「リーキーガット症」を発症します。
魚たちから排泄された糞や病気で死んだ死体は窒素やリンを豊富に含んでいるため、海藻を成長させる肥料になってくれます。
つまり浮遊性海藻とプラスチック片に付着したビブリオ菌は、うまく共生関係を作って非常に効率よく海藻を食べに来た魚たちを餌食にすることができたのです。
こうして海洋上でも浮遊性海藻のホンダワラ属とプラゴミ、そしてプラゴミに付着したビブリオ菌が共に繁栄する特殊な環境が形成されたというのです。
問題は、この人間にとって潜在的な病原性を持つ細菌が、陸地に押し寄せていることにあります。
近年では周辺国から流れ込む廃水や肥料のせいで浮遊海藻は大繁殖を起こしており、上の図のように、浜辺に大量に漂着するようになってしまったからです。
もし打ち上げられた海藻にビブリオ菌が混じっていた場合、人間への感染を引き起こす可能性もあります。
そのため研究者たちは、海藻が浜辺に打ち上げられたとしても、不用意に触れるべきでないと警告しています。
人間が環境に放出したプラスチックはこれまで地球環境に存在しなかった特殊環境を作り出しました。
プラスチックが病原体というパートナーをともなって、人間社会に里帰するのを防ぐためには、まず人間自身がプラスチックへの過度な依存を減らすことが重要となるでしょう。