人類よりカンガルーの方が共通祖先より大きく進化していた
研究チームは今回、現生する有袋類と有胎盤類22種を対象に、胚〜成体にいたる発達段階を理解すべく、頭蓋骨の標本165個をマイクロCTスキャンで分析。
共通祖先の発達段階と比較した頭蓋骨の変化が、有袋類と有胎盤類のどちらでより共通祖先に近いかを調べました。
その結果、有袋類の発達過程は有胎盤類に比べて、共通祖先の発達過程から大きく変化していることが判明したのです。
反対に、私たち有胎盤類の方が、共通祖先の発達プロセスと近い関係にありました。
ゴスワミ氏はこう述べました。
「私たちが明確に示すことができたのは、現在の有袋類の発達方法が共通祖先から大きくかけ離れたものであるということです。
よって有袋類の生殖は、卵生の哺乳類と胎生の哺乳類の中間形態とは考えられません。
それは有袋類が進化させた全く異なる発達方法なのです」
では、カンガルーたちの方法が私たちより進化しているというなら、子供が未熟な状態で生まれることにどんなメリットがあったのでしょうか?
柔軟な生殖システムで長距離の大陸移動ができた?
この点について、ゴスワミ氏は「有袋類の発達戦略は、環境が不安定な状態で生きている場合に適している」と指摘します。
「有胎盤類は妊娠期間が長く、母体と赤ちゃんが密接に結びついているので母体の負担が大きくなります。そのためもし妊娠中に資源が枯渇するようなことがあれば、母子ともに死んでしまう可能性が高くなります。
しかし有袋類の場合、母親が非常に早い段階で子供を外に産んでしまうので、資源が枯渇しても、少なくとも母親だけは生き残る確率が高くなり、後で資源が得られるときに再び出産に挑戦することができるのです」
このことは大陸が地続きだった時代に、有袋類たちが北米からオーストラリアに移動できたことを説明するかもしれないといいます。
最も古い有袋類は北米が起源となっていますが、そこから南米に広がり、今日の南極大陸を経由してオーストラリアにたどり着きました。
しかし同時代の南米には多くの有胎盤類も生息していましたが、彼らはオーストラリアに移住していません。
そのためゴスワミ氏は「有袋類はより柔軟な生殖システムを持っていたために、長旅をするのに適していたのではないか」と考えています。
お腹のポケットで子どもを育てるというカンガルーなどの有袋類は、非常に不思議な生き物に見えます。
そんな彼らが我々人類よりも進化的に先を行く生殖システムを持っているというのは非常に興味深い報告です。