哺乳類の中で「有袋類」はどんな立ち位置にある?
本題に入る前に、哺乳類の中における「有袋類」の立ち位置や、彼らがヒトよりも原始的だと考えられてきた理由について見ておきましょう。
今日存在する哺乳類は、有胎盤類・有袋類・単孔類の3つのグループに分類されます。
これらを分けるのは”生殖の仕方の違い”です。
有胎盤類は哺乳類全体の95%を占める大所帯であり、胎盤の中で子供を育て、ある程度成熟した状態で体外に産み落とします。
私たちヒトを含む大半の哺乳類がこれに属し、妊娠期間が長いので、産まれた子の中には割とすぐに歩ける種もいます。
牛や馬、シカなどがそうですね。
一方で、有袋類は妊娠期間が短く、子供がかなり未熟な状態で産まれるため、育児嚢(いくじのう)と呼ばれる腹部のポケットの中で子を育てます。
子供を育てるための袋を持っているから「有袋類」です。
有胎盤類は、胎盤を通して子供に栄養を与えられますが、有袋類は胎盤がないか、あっても十分な栄養が与えられません。
それゆえ、未成熟な状態で早々に産んで、袋の中で乳を与えながら育てなければならないのです。
代表的な種はカンガルー・コアラ・オポッサム・ウォンバット・ワラビーなどで、ほとんどがオーストラリアに生息しています。
3つ目の単孔類は、哺乳類なのに卵を産む(卵生)という珍しいグループです。
哺乳類の中で最も原始的かつ最も小さいグループであり、カモノハシとハリモグラの2科しか存在しません。
そしてこれまでの研究により、現生する哺乳類はすべて約1億8000万年前に卵を産む共通祖先から派生した子孫であることが分かっています。
そのため、今でも卵を産む単孔類が最も原始的で、成熟した子供を産む有胎盤類が最も進化的には進んでいると考えられてきました。
そして「未熟な状態で赤ちゃんを産む有袋類は、進化上両者の中間に位置付けられる」というのが長年の定説となっていたのです。
しかし、研究主任の進化生物学者であるアンジャリ・ゴスワミ(Anjali Goswami)氏はこう話します。
「生物学者は長い間、有袋類を卵生の哺乳類と胎生の哺乳類の間に位置する劣った存在と見なしてきました。
ところが私たちの新たな研究で、有袋類こそ、共通祖先から最も先に進化した存在である可能性が浮上したのです」