ウマの「イライラ」や「失望」と関連する独特のサインを発見

この実験には、31頭のオスとメスのウマ(2~23歳)が参加し、透明パネルと不透明パネルが備わった特殊な給餌器が用いられました。
まず、ウマが見守っている中、透明パネルで蓋をされた給餌器(餌箱)に餌が注がれます。
そして10秒後に透明なパネルの蓋が取り除かれ、ウマが餌を食べられるようになります。

これを繰り返すことで、ウマは10秒後にエサにありつけることを学習し、この10秒間に「期待」の感情が高まると考えられます。
その後チームは、2つの実験を行いました。
1つ目は「イライラ」を調べる実験で、10秒経っても透明パネルが取り除かれませんでした。

そのためウマは、餌が見えているにも関わらず食べることができず、イライラを募らせると考えられます。
2つ目は「失望」を調べる実験で、透明な蓋は取り除かれるものの、代わりに餌の上に別の不透明な蓋をして、ウマが餌箱を覗き込むと中身が空のような状態にしてしまいます。

エサにありつけると期待していたウマは、いざ食べようとすると餌が無いため、期待が裏切られ、失望すると考えられます。
そして研究チームは、これらの実験中にウマの表情をビデオカメラで記録し、ウマの行動と顔面の筋肉の収縮を発見するシステムで分析しました。
その結果、ウマの「イライラ」と「失望」では、表情が大きく異なると判明しました。
イライラ状態のウマは、白目を多く見せ、耳を回転させたり、頭を左に向けたりする傾向がありました。
また「給餌器を噛む」という行動も見られました。

一方、失望状態のウマでは、瞬きが増加する、鼻孔が上がる、舌を出す、咀嚼行動が増える、などの傾向が見られ、給餌器を噛むのではなく、舐めることが多かったようです。
さらにチームは、オスよりもメスの方が失望状態で瞬きが多い、という性差を発見することもできました。
失望もイライラも同じくネガティブな感情ですが、ウマの表情にははっきりと違いが表れていたのです。
ちなみに、今回の研究にはいくつかの限界があります。
まず、ウマがエサを待っている10秒間で感じているはずの「期待」は、ウマの表情から見分けることができませんでした。
そもそも馬の期待は表情に表れにくいのか、それともウマが抱く「食べ物に対する期待」がそこまで大きくなかったのか、謎のままです。

さらに今回の実験で得られた感情(イライラ・失望)と表情の関連性は、給餌にのみ適用されるかもしれません。
給餌以外の別の状況では実験を行っていないので、「同じ感情でも場面によって表情が異なるのか否か」はまだ知ることができていません。
今回の結果でも、確かにイライラしたから箱を舐めると考えるよりは、餌への未練で舐めていると考えるほうが自然かもしれません。
とはいえ今回の実験から、ウマにも心理状態の微妙な違いがあり、人間でも表情で判別できることが一部示されました。
今後研究を続けていくことで、ウマが嫌がることや恐れていることをより正確に理解できるようになるでしょう。
そうすることでウマの精神的な健康をサポートし、騎手の安全を損なう状況を回避するのに役立てていけるはずです。