高域を強調する骨伝導ヘッドホン技術がデメリットを解消する
今回の鵜木祐史氏ら研究チームは、骨伝導ヘッドホンの課題に取り組んでいます。
まず彼らは、骨伝導ヘッドホンが従来のヘッドホンやイヤホンに比べて音声了解度が低下する原因を探ることにしました。
骨導音の2つの振動(側頭部振動・外耳道内放射音)と気導音の伝達特性を比較したのです。
その結果、いずれの骨導音も、気導音に比べて高域成分が減衰していると分かりました。
このことから骨伝導ヘッドホンが騒音環境で聞こえにくい主な原因は、高域成分の減衰だと考えられます。
そこでチームは、骨伝導ヘッドホンに入力される音声信号の高域を事前に強調する技術を開発しました。
この研究では、骨導音の2つの振動(側頭部振動「RT」・外耳道内放射音「EC」)に対して、それぞれ2種類の強調処理(簡便な方法「FOE」と精密な方法「HOE」)が開発され、合計4種類「RT-FOE、RT-HOE、EC-FOE、EC-HOE」がテストされました。
実験では、男性の日本語母語話者10名(23~26歳)を対象に、音声データを流し、いくつかの騒音レベルで正しく単語を聞き取れるか試しました。
ちなみに音声データは、単語の馴染み深さの違いごとに4つのランク(Familiarity1~4)に分けられていました。
普段よく耳にする単語と滅多に耳にしない単語では、音声了解度が異なるからです。
そして実験の結果、騒音環境において、側頭部振動における2種類の強調処理(RT-FOE、RT-HOE)が音声了解度を効果的に改善すると分かりました。
つまり側頭部を振動させる際に高域を強調することで、騒音環境でもよく聞こえるようになるのです。
図表によると、雑音レベル55dBでは「強調無し(No empasis)」と強調ありで大きな違いが見られないものの、雑音レベルが上昇していくにつれ、側頭部振動の2種類の強調処理が強調無しを上回っているのが分かります。
65dB(掃除機の音レベル)では、強調無しの「馴染みのない単語(Familiarity1~2)」の音声了解度が特に低下していますが、強調処理があるとその部分が大きく上昇しています。
75dB(地下鉄の車内レベル)では、全体的に大きく低下した強調無しの音声了解度が、強調処理によってすべて上昇しているのが分かりますね。
この新しい技術の開発は、従来の骨伝導ヘッドホンのデメリットの1つを解消するものとなるでしょう。
そして既に、ウエストユニティス株式会社の産業用スマートグラスにこの技術が採用されています。
研究チームは今後、補聴技術への応用や、火災現場などの高騒音環境における拡張を行っていく予定です。