新種の寄生性ミドリムシは宿主を殺しながら増殖する
寄生性のミドリムシが発見されたのは今から100年ほど前であり、古くからその存在は知られていました。
ただ当時はDNA分析技術が未発達であり「ミドリムシ」の仲間とする分類も光学顕微鏡での観察によって得られた視覚的な特徴に依存していました。
そのため長い歴史とは裏腹に、これらの寄生性ミドリムシが本当にミドリムシの仲間なのか、その進化的起源はいかなるものなのか、どのような生態の生物なのか、などは未解明なままでした。
そんな中、研究者たちは筑波大学近郊の水田で驚くべき発見をしました。
水田から採集したカイミジンコやヒメウズムシなどの体内から、鞭毛を持つ微生物、いわゆる鞭毛虫を発見したのです。
これらの動物を飼育したところ、鞭毛虫は動物体内で急速に増殖する一方で、寄生された動物は数日以内に死亡することが認められました。
このことは、発見された鞭毛虫が致死的な寄生虫であることを強く示唆しています。
また、これらの動物から単離された鞭毛虫は体外に出ると、ある種のフォームチェンジを行い、鞭毛を伸ばして遊泳するようになりました。
動物の体内にいたときには、このような鞭毛をつかった遊泳はみられなかった行動です。
そこで研究者たちは光学顕微鏡および電子顕微鏡での観察を行い、鞭毛虫の表面の構造、内部のミトコンドリア、赤い眼点、貯蔵物質などを調べてみました。
すると全ての特徴が光合成を行うミドリムシ「ユーグレナ」の特徴を持つことが分かりました。
一方で、ユーグレナたちが光合成のために持つ葉緑体は、今回の観察でも見られませんでした。
次に研究者たちは寄生性ミドリムシからDNAを抽出し塩基配列を解読してみました。
すると寄生性ミドリムシのDNAは光合成を行うミドリムシと多くが一致することが判明。
この結果は、発見された寄生性ミドリムシが寄生生活へ適応する過程で、かつて先祖が持っていたはずの葉緑体を失ってしまった可能性を示唆しています。
またカイミジンコのような貝虫類において、寄生性ミドリムシの存在が報告されたのは世界ではじめてとなりました。
そのため研究者たちは発見された寄生性ミドリムシを新種であると結論し、発見場所の「筑波」、寄生することから「宿り」そしてミドリムシに類する遺伝子を持つことから「ミドリムシ」をとり、まとめて「ツクバヤドリミドリムシ(Euglenaformisparasitica)」と名付けました。
またカイミジンコに対するツクバヤドリミドリムシの感染率を調べたところ、40%と極めて高い数値となっていました。
カイミジンコは水田に最も多く存在する動物の1つとして知られており、宿主を殺しながら増殖するツクバヤドリミドリムシは水田の生態系に甚大な影響を与えていると考えられます。
研究者たちは水田の寄生性微生物の生態解明を進めることで、水田にかんする理解が進むと述べています。