オス同士のセックス、それは同盟の誓約
今回の研究では、オス同士のマウンティングだけではなく、その後の2匹の行動についても精密に調査が行われました。
マウンティングが単なる社会的地位の誇示でなく、セックスの一形態であった場合、マウンティング行為は2匹の関係に何らかの変化をもたらす可能性があったからです。
結果、マウンティングに従事した2匹のオスザルたちは「仲良く」なっており、争いが起きた際にお互いを支援する確率が有意に高くなっていました。
また2匹のオスザルたちが「共通の敵」と戦った後には、およそ16.5%の確率で同性間のマウンティングが発生することがわかりました。
研究者たちは2匹のオスたちはマウンティングを介して戦いの緊張感の緩和やさらなる絆の強化を行っていると述べています。
この結果は、オスザルたちはときに挿入や射精を伴うマウンティングを、社会的絆を強めたり共通の敵と戦うための同盟締結に使っている可能性を示しています。
また興味深いことに性別ごとにマウンティングが行われたケースを比較したところ、オスザルの72%が他のオスにマウンティングを行った一方で、メスに対してマウンティングを行ったのは46%に過ぎませんでした。
どうやらオスザルたちの多くは絆や同盟を結ぶためのマウンティング相手として、異性よりも同性により多くのアプローチをしているようです。
原始的な人類社会では異なる氏族が男女の婚姻により同盟関係を締結しましたが、身1つで生きるオスザルたちは自らセックスに従事することで他のオスとの絆を結んでいたのでしょう。
握手や抱擁といった身体的接触は他にも存在しますが、サルたちは絆や同盟を結ぶ方法としてセックスを選んでいたようです。
研究者たちは、このような社会的絆や共闘関係の形成は、個体としての生存に有利になる可能性があり、同性間の性的行動を維持する進化的な原動力になった可能性があると結論しています。
実際、同性マウンティングの頻度に対して、遺伝子の影響が6.4%ほど存在することが明らかになりました。
この結果は同性マウンティングを促進するような役割を持つ遺伝子が存在していることを示しています。
しかしそうなると気になるのが、子孫繁栄への影響です。
同性マウンティングを頻繁に行う同性愛的指向が強いオスザルは、メスとの生殖に悪影響を受けているのでしょうか?
謎に応えるため研究者たちは同性マウンティングの頻度と子孫を残す数を比較してみました。
すると意外なことに、同性マウンティングを行うオスザルたちはマウンティングを行わないオスザルに比べて、より多くの子孫を残していたことが判明します。
同性マウンティングを行うオスザルたちは社会的絆や同盟締結による恩恵で、生殖に成功する可能性も上げていたのです。
この結果は、霊長類における同性愛が子孫繁栄を妨げるのではなく、逆に成功に導いていることを示します。
そのため研究者たちは、霊長類における同性愛は競争に勝ち子孫を残すために進化的に獲得されたシステムの1つである可能性を述べています。
もし同様の仕組みが人類にも存在している場合、人類の同性愛も進化のなかで育まれてきた生存戦略の一部ということになるでしょう。
同性愛が自然淘汰されない理由も、同性愛の性質を維持していたほうがむしろ生存競争において有利だった可能性があります。
研究者たちは今後も、同性愛行動の生物学的な理解を進めるための研究を続けていくとのことです。