ワニは人よりも異種の苦痛を見分けるのが得意だった?
チームは音声サンプルを分析し、音の高さ、ボリュームの大きさ、音節の長さ、調和した音、混沌とした不規則な音など、18種類の音響特性を調査。
それらとワニの反応性を照らし合わせた結果、ワニは音が高くて大きなエネルギーを放つ泣き声や、音波パターンの抑揚が激しくて不規則性のある泣き声に対して、より強い反応を示すことが分かったのです。
こうした音声はヒトやチンパンジー、ボノボのいずれにおいても、より苦痛度が強く、緊急性の高い泣き声に相当します。
(赤ちゃんや子供の泣き声を聞くと、苦痛度が強いほど、しゃくり上げるような抑揚の激しい声になることをご存知でしょう)
つまり、ワニたちは異種の動物の苦痛の度合いを正しく見分けていると考えられるのです。
他方で、私たち人は高い音ほど苦痛度が強いものとして評価する傾向があり、それゆえに異種の苦痛度を誤って評価してしまうことがあるという。
例えば、ボノボの鳴き声は一般的に人よりもずっと高音であり、同レベルの苦痛に対しても、ときたまより高い声で泣く場合があります。
人々はこのとき声の高さに応じて彼らの苦痛を過大評価してしまう傾向があるといいます。
ところが、ワニは声の高さが異なっていても苦痛のレベルが同一のときは、同じような反応しか示しませんでした。
つまりより複合的な声の要素も感じ取って、相手の感じている苦痛をワニは正確に評価している可能性があるのです。
この点だけを見ると、ワニの方が人間よりも異種の苦痛度を正しく理解することに長けていると考えられます。
なぜワニは異種族の赤ちゃんの声に反応するのか?
ワニが霊長類の苦痛の声にここまで敏感に反応する理由は定かでありません。
普通に考えると、弱った獲物を認識して、その居場所を特定するための適応進化と解釈するのが妥当であり、研究者もその可能性は十分にあると述べています。
ところが実験では、一部のメスのワニはヒトの赤ちゃんの泣き声が発せられているスピーカーに対して、母親が窮地に陥った子供を守るときと同じ反応を示したといいます。
彼らが必ずしも捕食行動を取ろうとせず、守ろうとした個体がいるという点は無視できない問題です。
脊椎動物はストレスに対して一貫した方法で反応することが多く、それに応じて発生器官も発達してきました。
そのため生物の感情を示すコミュニケーションは、種を超えて伝わる場合があります。
例えば、イヌは私たちの声を聞いて人間の感情を認識できることが示されています。
そのため「私たちは種を超えて、お互いを理解できる可能性がある」と研究者は話します。
よってワニは必ずしも捕食のためではなく、何か他の理由で異種の泣き声に反応している可能性も考えられるようです。
「困っている赤ちゃんがいるから母親を見つけてあげよう」とワニが考えたと解釈するのはあまりにメルヘンすぎますが、本研究の成果は、ワニの認知や行動について新たな洞察を与えてくれるものとなるでしょう。