ペトリ皿に産卵管を突き刺して掘り進める
今回の研究主任であるマトヴェイ・ニケルシュパルグ(Matvey Nikelshparg)氏は最近、サラトフ国立大学で学士号を取得したばかりの若い研究者です。
彼は幼い頃から昆虫に興味を持ち、13歳になる頃には、他種の幼虫に卵を産み付ける寄生バチに夢中になっていたといいます。
同大に進学したニケルシュパルグ氏は日々、独自に集めた寄生バチを自宅の実験室で飼育しながら、顕微鏡を使って観察を続けていました。
そんな中、自主的に行っていた実験で「エウペルムス・メセーヌ(Eupelmus messene)」という寄生バチに驚異のドリル能力を見つけたのです。
E. メセーヌはハチ目・ナガコバチ科(Eupelmidae)の寄生バチで、サイズは米粒ほどしかありません。
人間にはまったくの無害ですが、他種のスズメバチの幼虫を見つけると、産卵管を刺して体内に卵を産み付けます。
ニケルシュパルグ氏は、もし複数匹のE. メセーヌ(メス)に対し、宿主となる幼虫が1匹だけしかいない場合に何が起こるかを実験しました。
そこで彼はプラスチック製のペトリ皿の中に、宿主の幼虫1匹とメスのE. メセーヌ12匹を入れて観察。
すると予想通り、ほとんどのメスはわれ先にと幼虫目がけて産卵管を突き刺し、卵を産み付け始めました。
同氏は観察記録として「メスたちは繁殖のための競争的な格闘の中で、互いに押し合ったり噛み合ったりしていた」と報告しています。
ところが不思議なことに、ある1匹のメスだけは乱闘に参加せず、独自に別の宿主を見つけ出していたのです。
それが硬いペトリ皿の壁でした。
そのメスは産卵管をドリルのように使ってグリグリと壁を掘り進めました。
まさに目を疑うような光景でしたが、カメラがその動かぬ証拠を捉えています。
こちらです。
それだけではありません。
このメスは硬いペトリ皿を見事に貫通させた後、産卵管を通してペトリ皿の外側に卵を産み付けたのです。
その後「卵から元気な赤ちゃんが生まれたことで、私の驚きは頂点に達しました」とニケルシュパルグ氏は話します。
同氏は急いで自らの発見を指導教員で生物学者のワシリー・アニキン(Vasily Anikin)氏に報告し、教授陣の主導による追加実験が行われました。