ヤツメウナギの進化と生態
ヤツメウナギは日本を含む世界中の寒冷な淡水域に生息しています。
ヤツメウナギの体には両側に7対のエラがあり、これが一見、目のように見えるため、実際の目とあわせて「八つ目」という名前がついています。
特に独特なのは歯で縁取られた丸い吸盤状の口で、これで獲物を捕らえて血液や体液を吸います。
そんななんとも恐ろしい姿のヤツメウナギですが、ただグロテスクな見た目を持っているだけではありません。実は生きた化石とも呼ばれるほど、原始的な生物であり、ある意味奇跡の存在でもあるのです。
ヤツメウナギは、オルドビス紀(4億8500万年前~4億4400万年前)に進化した「無顎類(むがくるい)」と呼ばれる古代の魚類グループに属しています。
無顎類とはその名の通り、脊椎動物の中の顎を持たない生物で、無顎類のほとんどが絶滅種です。
現在でも生息しているヌタウナギ類とヤツメウナギ類に関しては無顎類の中でも円口類と呼ばれます。
逆に顎を持つ脊椎動物は顎口上綱(がっこうじょうこう)という生物の一群にくくられ、この中には魚、鳥類、哺乳類などが含まれます。
脊椎動物の先祖は約5億年前のカンブリア紀に、脊索(せきさく)という未発達の背骨のような構造を持っていました。
この脊索は後に脊椎に進化し、骨と脳を持つ脊椎動物へと発展しました。
しかし、この段階ではまだ顎はなく、丸い口を持っていました。その後、形態が魚やヘビに似たものに進化し、無顎類という脊椎動物へと変わっていったのです。
さらに1億年が経った頃、無顎類の中から顎を持つタイプが現れ始めました。これが「魚」と呼ばれる存在になっていきました。
つまり無顎類であるヤツメウナギは、魚が顎を持つ前の姿を留めている生物、まさに生きた化石なのです。
また、ヤツメウナギに骨はなく、骨格はすべて軟骨でできています。
かつては同じように軟骨骨格を持つサメ・エイなどと共に軟骨魚綱(なんこつぎょこう)という一群に入れられていましたが、サメなどとは異なる点が多くあったため、ヤツメウナギ類とヌタウナギ類で単一のグループとされました。
ヤツメウナギのメスは、淡水域にある巣に一度に最大20万個もの卵を産み、この卵を3~4週間で孵化させます。
孵化したばかりの幼魚は周囲の堆積物に身を潜め、驚くべきことに、最長で10年間もそのまま堆積物に埋もれて生活します。
稚魚に成長すると海へと進み、数年の歳月を経て体長最大84センチにも達する成魚になり、再び淡水の生息地へと帰還します。
そして理想的な産卵・子育ての場所を見つけるために、何百キロも川や湖を移動します。こうして命のサイクルを続けているのです。
ヤツメウナギは、脂が豊富な肉質が特徴であり、サケの3~5倍のカロリーを含んでいます。
そのため、多くの種類の鳥類、哺乳類、魚類にとって非常に魅力的な食物源となっており、ヤツメウナギは生態系において重要な役割を果たしています。
人間にも食べられてきたヤツメウナギ
ヤツメウナギは古くから世界中で人間により食べられてきた存在でもあります。
ヨーロッパではローマ帝国の頃から食べられており、現在でもフランス、ポルトガル、スペインなどではシチュー、リゾットなどの材料として広く用いられている食材でもあります。
日本でも古くからヤツメウナギは滋養強壮の高価があるとされ、江戸時代にはすでに食べられていたようです。
ビタミンAを多く含むヤツメウナギは夜盲症(鳥目)の薬としても用いられてきました。
食用として食べられているのは主にヤツメウナギの仲間のカワヤツメですが、日本では環境破壊などによって生息に適した場所が失われたためかその数が激減しており、環境省のレッドリストでは絶滅危惧Ⅱ類に指定されています。