量子もつれはタイムトラベルとして解釈できるのか?
そこで今回、ケンブリッジ大学の研究者たちは、量子もつれが持つ曖昧さについて、新たな検証を行うことにしました。
この未来の観測が過去の観測結果を変えてしまうという結果を、本当にタイムトラベルが可能であると仮定した場合でシミュレートしてみたのです。
実際のシミュレーションでは、上のような時間遡行可能な量子もつれ回路が形成されました。
すると、4回に1回の確率で、未来で行った恣意的な観測によって、過去の測定結果を変更できることが示されました。
そのため研究者たちは、過去に起こった出来事を未来に変更することは、物理学の法則に違反しないと結論しました。
また研究者たちはこの結果について、プレゼントを贈る場合を例に説明しています。
友達にプレゼントを贈るのに3日かかるとすると、3日後に届くには必ず1日目に送る必要があります。
ただし、友達が本当に欲しいものを記した「欲しいものリスト」が公開されるのが2日目になってからだとします。
そうなると、普通はもう手遅れです。
しかし量子もつれの仕組みをタイムトラベルに見立てて利用した場合、計算上、25%の確率で既に送ったはずのプレゼントの中身を変更できるのです。
その方法は、先に述べた通り、量子もつれにある手元に残った粒子Bに対する、恣意的な観測です。
たとえばズボンとシャツのプレゼントボックスが量子もつれにあるとき、友達が欲しいものがズボンなのにシャツを送ってしまった場合、手元に残ったズボンが絶対にズボンにならない観測装置を使うと、25%の確率で内容が変更され、友達にズボンが届くようになるのです。
量子もつれにある両者に対する観測の方法を変えるだけで、過去の結果に干渉できるとする理論は、非常に魅力的と言えるでしょう。
しかし送る時(1度目の観測)ではシャツだったはずのものが、ズボンになるのは、なぜなのでしょうか?
最大の理由は、1度目が弱い観測であり、多くのノイズや不確かな情報を含んでいる点にあります。
ただ実際には、2回目の観察が行われたことで、1回目の弱い観察のときにシャツだと思っていた特徴が再解釈され、ズボンの特徴だったことが「判明する」と考えられます。
そして1度目の観察結果は最終的結論に矛盾するものではなく、2度目の観察結果の別の側面が現れたに過ぎない、ということになってしまうのです。
この歴史の修正力とも言える強引な帰結は、どんなに対策を施しても、防ぐ方法がありません。
おそらく調べれば調べるほど、1度目の観察結果が実はシャツではなくズボンだった証拠が増えていくことでしょう。
あるいは1度目の測定結果は、2度目の強い測定では見られない結果が集約されたものになる可能性もあります。
なんらかの修正力が働き、矛盾が矛盾でなくなるのは非常に興味深い現象と言えるでしょう。
もしかしたら現実の因果関係や時間の流れは、私たちが直感的に理解しているものとは異なる、もっと別の存在なのかもしれません。