活性化によってマウスが突然失神した
調査にあたってはまず、マウスの脳細胞が光で活性化するように遺伝子操作を行い、神経線維の接続先である脳幹の後領域部分に光ファイバーを刺し込み、光を照射してみました。
すると驚いたこと、それまで元気に動き回っていたマウスが突然倒れて動かなくなってしまいました。
(※マウスの活動停止期間は7~8秒ほど続きました)
またこのときのマウスの身体データを調べると、心拍数が低下するか完全に停止し、人間の失神にみられるように瞳孔の拡張と眼球の回転がみられました。
このときマウスの脳の神経活動が顕著に低下し、血圧・呼吸数・脳への血流も大幅に減少していることが判明します。
そして外科的手術によってこの神経線維のみを切除すると、失神を誘発させる化学物質を投与しても、マウスは失神しなくなっていることがわかりました。
さらに新たに発見された神経回路が、心臓以外の臓器から信号を受け取っているかを調べたところ、その可能性がほとんどないことが判明します。
そのため研究者たちは「この神経線維が失神を引き起こすベゾルト・ヤーリッシュ反射に必須であることを示している」と結論しました。
失神を引き起こす神経線維を遺伝学的な方法で特定したのは、今回の研究が世界ではじめてとなります。
これまで私たちは脳の司令塔としての役割を強調していましたが、今回の研究では心臓が脳に対してシャットダウンの命令を送っている実態が明らかになりました。
また興味深いことに、この神経線維の接続先である脳幹の後部領域は、他の脳とは異なり血液脳関門によるバリアなしに、血液と接することが可能です。
つまりこの脳領域に作用する化学物質を開発することができれば、血中に注射するだけで、失神を起こりにくくする薬となる可能性があるのです。
失神は体の防衛反応の一種であると考えられていますが、一部の人では失神が常態化し、日常生活を送るのが困難になっています。
そのような人々にとって、失神を防止する薬は非常に有用になるでしょう。