失神の仕組みは謎に包まれていた
失神は、約 40% の人が一生に少なくとも1回は経験すると言われています。
失神の原因は、脳震盪のような物理的衝撃によるものだけでなく、内臓と脳を結ぶ神経の過活動による「神経反射」と呼ばれるものなど、多岐に及んでいます。
前者の脳震盪の場合、物理的衝撃によって神経接続が一時的に途切れてしまうことが原因だと考えられています。
一方後者の神経反射については、1876年に心臓から脳に伸びる神経の刺激によって誘発され、心拍数・血圧・呼吸数の減少という失神の代表的な症状が発生することが報告されています。
(※この反応はベゾルト・ヤーリッシュ反射として知られています)
私たちの脳は各地の内臓と神経をつなげることで、内臓に異常があるかを常に監視しています。
しかし何らかの原因でこの神経が異常に活性化されると、脳に強い信号が伝達され、結果として失神してしまうことがあります。
警備システムに例えるならば、センサーに強い電流が発生し、警備システム本体がシャットダウンしてしまうしてしまう現象と言えるでしょう。
映画やドラマなどでは、精神的ショックを受けた貴婦人が倒れ込むシーンがしばしば描かれますが、これは実際、神経反射が原因で起きる可能性があるのです。
しかし現在のところ、具体的にどこのどんな神経線維が失神の信号を脳に届けているかは、ほとんどわかっていませんでした。
センサーと警備システム本体のつながりが原因なのはわかっていても、具体的にどの色の電線が失神を伝えているかが判っていなかったのです。
そこで今回カリフォルニア大学の研究者たちは、失神の仕組みを解明すべく、心臓と脳を結ぶ神経を調べることにしました。
すると血管収縮に関連する遺伝子(NPY2R)を発現させている神経線維が、心臓の心室から脳幹の小さな領域(後領域)に向けて伸びていることが判明します。
ただこの段階では、神経線維がどんな役割を持つかは明らかではありませんでした。
そこで研究者たちは、神経線維の接続先となる脳領域を活性化させ、何が起こるかを確かめることにしました。