歯が抜ける夢はストレスや暗示ではなく、歯の痛みが原因かも
2012年の香港樹仁大学(HKSYU)の研究では、回答者のうち39%が「歯が抜ける夢」を見たことがあると述べました。
そして16.2%の人が歯の夢を再び見たことがあり、8.2%の人は定期的に見ているようです。
「歯が抜ける」「歯が腐る」「歯がなくなる」といった夢は、私たちが普段見る夢の中でも、かなり一般的な部類なのです。
とはいえ、これらの夢はかなりショッキングです。
そのため目が覚めた時には、「どうしてこんな夢を見たのだろうか」「何か原因や意味があるのだろうか」と心配になってしまうものです。
そうした私たちの心配を埋めるかのように、世間やネット上には「歯が抜ける夢」に対する多くの説があふれています。
もっとも多く見つかる説明は、これが「ストレスや不安、悩みが原因」というものです。
また「家族の死を示す予知夢」や「自分の心が変化するサイン」などのオカルト的な説明もあるようです。
いずれにせよ歯が抜ける夢には、何かしら精神的・心理的なものが関係しているというのです。
では、こうした夢の原因を科学的に検証するとどうなるでしょうか。
デュデク氏ら研究チームは、210名の参加者(18~28歳)を対象に、夢と精神や身体がどのように関係しているかアンケート調査を取り、そのデータを分析しました。
まず参加者たちは「The Dream Motif Scale(2012)」と呼ばれる質問票(100個の夢のテーマが含まれる)を使用して、どんな夢をどの程度見ているのか、5段階評定(0:見たことがない、4:月に1回以上)をしてもらいました。
研究チームが特に注目したのは、その中でも「歯の夢」に関連した4項目です。
また参加者の心理状態を評価する質問票「The Brief Symptom Inventory(1983)」を用いて、過去1カ月における症状53項目(不安、うつ、妄想的思考など)を5段階評価しました。
さらに彼らは、ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)を使用して、睡眠障害の有無を含む過去1カ月の睡眠の質も評価しました。
加えて、歯に関する症状(炎症、歯ぎしり、うずき、圧迫感)などの質問にも答えています。
その結果、歯が抜ける夢と、歯の炎症や起床時の歯のうずきには大きな関連があると分かりました。
さらにこの研究では、歯が抜ける夢と、心理的苦痛や睡眠の質の間には関連性が見られないという結果になりました。
つまり、「歯が抜ける夢」と他の症状との関連性を調べた結果、その夢は、一般的に知られている「心理的な要因」によるものではなく、「身体的な要因」によって引き起こされていたのです。
確かに、夢には身体的な要素が関わってくるものです。
膀胱に尿がたまっていれば、トイレに行く夢や水に関係した夢を見ることがあるでしょう。
また布団が体に巻き付いていたり、猫が胸の上にのっていたりすると、「息ができない夢」「首を絞められる夢」を見ることもあります。
「歯が抜ける夢」も、そのような身体的要因が強く関係する可能性が高いのです。
研究チームは、人々が睡眠中、自分では気づかないうちに歯ぎしりをしていて、歯の炎症を引き起こしている可能性があるとも述べています。
実際虫歯の原因には、無自覚な睡眠中の歯ぎしりが原因となるケースも多く、歯科医はそうした場合に患者にマウスピースをして寝るよう指導しています。
とはいえ、この研究ではサンプルサイズに限界があります。
チームは、メカニズムを解明するために、さらなる研究が必要であることを指摘しています。
私たちとしても、「心理的な要因を完全に否定する」というよりも、「身体的な要因にもっと目を向ける」というスタンスでいると良いでしょう。
もし、次に「歯が抜ける夢」を見ることがあるなら、深層心理や予知夢について色々と調べるよりも先に、歯科クリニックに行って、自分の歯の状態をチェックしてもらってください。