『バラの聖母』の聖ヨセフは別人が描いた?
ラファエロ・サンティ(1483〜1520)はイタリアを代表する画家であり、ミケランジェロ、レオナルド・ダ・ヴィンチと共に盛期ルネサンスの三大巨匠の一人に数えられます。
彼の最も有名な作品は、バチカン宮殿の通称・ラファエロの間に描かれたフレスコ画である『アテナイの学堂』(1509〜1510年)でしょう。
教科書の図説にも掲載されており、皆さんも一度は目にしたことがあるかもしれません。
そんな彼が残した傑作の一つが1517年頃に制作された『バラの聖母』です。
絵のテーマは聖家族で、中心には聖母マリアと彼女の腕に抱かれる幼いイエス・キリストが描かれており、左下には幼児の洗礼者・聖ヨハネがラテン語で「神の子羊」と記された紙片をイエスに手渡しています。
そして左奥の暗がりに、マリアの夫でイエスの養父である聖ヨセフが俯くように佇んでいます。
『バラの聖母』は礼拝堂の祭壇画として制作されましたが、制作の経緯や発注者については不明です。
またブラッドフォード大学で分子分光学を専門とするハウエル・エドワーズ(Howell Edwards)氏は、この絵が長年の論争の的になっていることを指摘します。
氏によると、鑑定家や美術史家の間では、聖母マリアや聖ヨハネは構図や絵画技術の点で極めて優れているのに対し、聖ヨセフの方は洗練さに欠けており、「一種の思いつきで後から工房で付け加えられたように見える」という。
確かに『バラの聖母』を見ると、聖ヨセフだけ色調や雰囲気が異なる感じがしますね。
こうした疑いは1800年代半ばから浮上しており、これまで多くの識者が「聖ヨセフは別の人物が描いたのではないか」と疑問を投げかけていました。
しかし、絵の中の聖ヨセフが贋作かどうかを人間の目で特定するには限界がきています。
そこで研究チームは、人間の目では捉えきれない細部まで認識できるAI(人工知能)を用いた調査を行いました。