素数周期が優れているシンプルな理由
なぜ素数セミの羽化周期は12年や18年のような普通の数ではなく、13年や17年という素数なのでしょうか?
先に素数セミの先祖たちは、長期間の地下生活能力や一斉に成虫になる仕組みを手に入れたと述べました。
しかし氷河期の環境は厳しく、ただ羽化周期を長期化させ一斉に羽化するだけでは不足でした。
大量発生するセミたちを食べるべく、捕食者もセミの周期にあわせて増えるように進化したと考えられます。
たとえば2年周期を持つセミに対しては、捕食者も2年ごとに数を増やすという戦略を取るようになっていきます。
同様に3年周期、4年周期、5年周期のセミにあわせて数を増やす捕食者が出現した場合、2,3,4,5年周期で一斉に成虫になるというセミの生存戦略は破綻してしまいます。
また捕食者が2年や3年ごとに数を増やす周期を持っていた場合、それらの倍数の周期では、いくら羽化周期を長期化しても、捕食者の増える時期と羽化のタイミングが結局は一致してしまうことになります。
つまり捕食者が増えるタイミングを外して一斉に成虫になるためには、自分自身以外で割れない数、すなわち素数周期を持つことが重要になるのです。
例えば、13年周期のセミは、2年、3年、4年、5年の周期で繁殖する捕食者との一致を避けやすくなります。
ならば素数セミにあわせて捕食者も13年周期で増えればいいのではないか?と思う人もいるでしょう。
しかし、実際には、これらの捕食者が13年周期で数を増やすことは非現実的です。
セミの寿命は長いですが、その捕食者である鳥やハチ、カマキリは十年以上の寿命を持つことは稀です。
また、素数の周期は、最小公倍数を増加させる性質を持っています。
2年周期で増える捕食者の場合、13年セミのタイミングに合うのは26年後、52年後、78年後…となりそれぞれの間には26年間も空いてしまします。
数十年に1度しか機会がない素数セミのために、2年周期や3年周期で増える機能を維持するのは、ほとんどの期間が絶望的なエサ不足(飢饉)となり絶滅のリスクを誘発するため、あまり意味がありません。
結果として「素数セミたちの羽化タイミングを狙って数を増やす」という捕食者の戦略は捨てざるを得ず、現在のように捕食者の消化能力を超えた圧倒的な状況を実現できているのです。
素数に潜む「最小公倍数を増加させる」というシンプルな仕組みが、素数セミたちの繁栄に結びついたというわけです。
ただ地上の生き物が対処できないほどの大量発生を起こすことが素数セミたちの生存戦略のため、異なる素数周期を持つ複数種の素数セミの羽化周期が重なり、一斉に地上に出現するという状況は人間にとっては頭が痛い問題となります。
異なる素数周期を持つセミたちが同時に羽化するタイミングは、上述した最小公倍数が大きいという問題から滅多に起こりませんが、計算上13年セミと17年セミの同時羽化は221年周期で発生します。
イリノイ大学が以前に行った研究では、素数ゼミの生息地域では、サッカーグラウンド1つぶんの面積(1エーカー)当たり、150万匹の素数セミが眠っていることが示されました。
素数ゼミに属する種は素数周期を維持したまま前後に数年ズレることがあり、全てが一斉に出てくるわけではありません。
しかし専門家たちが計算したところ、2024年は13年セミと17年セミの羽化周期が重なる年で、合計で1兆匹もの素数ゼミが地上に出てくる可能性があることがわかりました。
この規模の大量発生が起こると、区域の大半がセミの抜け殻や死骸で覆われ、雪かきならぬセミかきをしなければインフラを維持できなくなってしまいます。
現在、素数ゼミの生息区域はゆっくりと拡散しつつあり、将来的にはより広い範囲がセミの大量発生に見舞われるかもしれません。
ただ殺虫剤はいまのところあまり効果がないことが判明しています。
そのため研究者たちは最も堅実な方法として、セミたちが卵を産み付ける木を防護剤などで覆う方法を提案しています。
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