「美しい言語」と「邪悪な言語」
人間は何を基準に言語音声の良し悪しを決めているのか?
答えを得るため研究者たちは作り込みが進んでいる12の人工言語を129人のドイツ語話者に実際に聞いてもらい「心地よさ」「善悪」「平和的か攻撃的か」という3つの尺度で評価してもらいました。
上の表は実験に使われた人工言語を、作者の目指した印象操作と共にまとめたものとなります。
たとえば①のオーク語(ロード・オブ・ザ・リング)は先に述べた通り、醜く邪悪なオークたちの話す言語として設計されました。
過去の研究では、オーク語はオークの外見(牙のある口元)に一致するように設計したと述べており「恐ろしく、力強く、石のように硬い」印象を受けやすくなっていると報告されています。
同様に④のドワーフ語(ロード・オブ・ザ・リング)や⑥のクリンゴン語(スタートレック)、⑨のドスラク語(ゲーム・オブ・スローンズ)もネガティブな印象を与えるように設計されています。
逆に②と③のエルフ語(ロード・オブ・ザ・リング)は、美しく優雅に聞こえるように設計されています。
制作者自身もエルフのクエンヤ語を「詩的でありながら著しく形式的な性質」を持つようにデザインしたと述べています。
また印象操作の部分に「‐」と記入されている⑦のバルカン語(スタートレック)や⑩のナヴィ語(アバター)は、目立った印象操作が行われていない言語であることを示しています。
(※⑫のウイイド語は言語学を学んでいる学生が趣味で作成した人工言語であり、一般には全く知られていません)
実験にあたって話者は男性と女性の両方が用意され、音声は感情を抑えてニュートラルなトーンで話すように訓練されました。
また音声を聞いてもらうにあたり、被験者の人工言語にかんする事前知識が調査され、事前に知っている人工言語については結果に反映されないようにしました。
これは結果に先入観が入る余地を徹底的に排除するためです。
上のグラフでは「心地よさ」「善良さ」「平和さ」の3つの平均点を高得点順に並べたものになります。
「心地よさ」「善良さ」「平和さ」はそれぞれ高い相関関係にあり、3つをまとめて扱うことは統計的みてあまり問題が無かったからです。
結果、ポジティブな印象操作を目指したエルフ語(ロード・オブ・ザ・リング)は、初めて耳にする被験者たちにも好意的に受け止められていることが判明します。
またクリンゴン語は製作者の意図通り、最もネガティブな印象を与えることに成功しました。
しかし同じネガティブな印象を与えるために作られたはずのオーク語やフズドゥル語では、それほど悪くない評価となっていたことが判明します。
研究者たちも、演出なしに感情的にニュートラルなオーク語を聞いた場合、思ったよりも穏やかに聞こえたと述べています。
さらに特に良い悪いの意図を持たずに作成されたバルカン語やケッシュ語はエルフ語に次ぐ位置にランクインしました。
制作者の意図以外に、いったいどんな要素がランキングに影響を与えていたのでしょうか?