美しいエルフ語を作る方法
人工言語の印象は何によって変わるのか?
謎を解明すべく研究者たちは各言語を音声学的に分析することにしました。
すると、声帯を振るわせる「b」「d」「g」のような有声子音の割合が高いほど、より肯定的に評価されていることが判明します。
たとえば「b(ブ)」と対応する「p(プ)」を比較した場合、「b(ブ)」では喉が震えるのに対して「p(プ)」では喉が震えず唇から空気が発射されるような感じになります。
(※有声子音「b」「d」「g」にはそれぞれ無声子音「p」「t」「k」が対応しています)
研究者たちは、ネガティブな印象を与えるために作られたオーク語では有声子音多くなっており、予想に反して比較的肯定的に受け入れられた原因になっていると述べています。
そのため映画中でオーク語が恐ろしく邪悪に感じるのは、主に効果音や外見など演出の影響のせいであると結論しています。
また評価に影響を与える第2の要因として、被験者たちの母国語が関連していました。
今回の研究で被験者たちは主にドイツ語話者でしたが、ドイツ語に存在しない音の割合が少ないほど(つまり音が似ているほど)好意的に評価されていたのです。
これまで行われた自然言語を対象にした研究でも、音声要素への馴染み深さが、他者性や奇妙さの認識に関与しており、馴染み深い音が多い音声ほど美しく聞こえていることが示されています。
さらに第3の要因として、ソノリティー(聞き取りやすさ)が高い音が多いほど、好意的にみられていることが判明します。
人間の音声では一般に、口を大きく開ける「a」などの広母音(ひろぼいん)が聞き取りやすい一方で、「p」「t」「k」のような声帯が震えない無声子音が聞き取りにくくなっています。
そして第4の要因として、音節のタイミングにリズムを持つ言語も好まれていることもわかりました。
これらの結果から、もし日本人の視聴者向けにポジティブな印象を持つエルフ語を作りたいとしたら、日本語をベースにして日本語にない発音や、声帯が震えない無声子音を可能な限り排除し、逆に口を大きく開ける音声を多く組み込み、音節にリズムを加えることが大切になるでしょう。
(※実際、最も好感度が高かったエルフのクエンヤ語では広母音の多用、複雑な子音の回避、リズム感を重視するための子音の省略、共鳴音の多用、全体的な母音と子音の均等な分布のような特徴がみられました)
また研究は演出の重要性も示されていることから、映像化する場合にはBGMや効果音、背景景色などにも注意を払ったほうがいいでしょう。
研究者たちは今後、研究結果を現実の自然言語などに適応して、同じような結果が得られるかを調査していくとのこと。
多くの作品で取り入れられているように、人工言語はSFやファンタジー作品の制作において雰囲気を作る重要な要因です。これは言語に関する研究であると同時に、クオリティの高い作品を生み出したい制作者にとっても有意義な研究かもしれません。