「むせるスイッチ」をオンにする細胞を発見!
チームは今回、「神経内分泌細胞(Neuroendocrine cell:NEC)」という細胞に着目しました。
NECは声帯と気管、肺の上皮に存在していますが、これらがどんな刺激を感知しているのかはよく知られていません。
そこでチームは、マウスの口内〜喉にあたる「上気道」および気管〜肺にあたる「下気道」の各所からNECを抽出し、細胞の働きを詳しく調べてみました。
そして各々のNECサンプルにあらゆる刺激を与えてみた結果、喉および気管から抽出されたNECのみが「水」と「酸」に反応することが判明したのです。
さらにNECは水と酸の刺激反応によって活性化すると、アデノシン三リン酸(ATP)という化学物質の放出を開始しました。
これがきっかけとなって、脳の咳中枢に信号を送る神経が活性化し、咳反射の発生が促されていたのです。
実際に、シャーレ上で培養したマウス組織のNECは、水と酸にさらされることで咳反射の反応を開始していました。
また生きたマウスを用いた別の実験でも、声帯と気管にあるNECを活性化させるとマウスの咳が引き起こされていました。
反対に、遺伝子操作によって声帯と気管のNECを完全に欠如させたマウスを作成したところ、気道上の水や酸に反応しなくなり、咳も起こらなかったといいます。
つまり、私たちの気道上には「むせるスイッチ」をオンにするための細胞が存在していると考えられるのです。
今回見つかったNECは「水」と「酸」に特化して反応したため、気管への液体の誤飲と胃酸の逆流をすばやく感知して、咳反射を起こすための細胞と思われます。
これらの結果を受けて、研究主任の一人であるローラ・シーホルツァー(Laura Seeholzer)氏は「一部の人が水を肺に誤飲しやすいのは、気道上の神経内分泌細胞(NEC)に何らかの機能障害が起きているからかもしれない」と述べました。
例えば、加齢や喫煙習慣、あるいは喉の疾患によりNECの機能が低下することで、気管への誤飲が増えて肺炎を発症しやすくなることが予想されます。
そこでシーホルツァー氏は、NECをターゲットにした新たな治療法を開発することで咳反射の正常化を促したり、他にも慢性的な咳や肺炎の予防にも役立つ可能性があると指摘します。
一方で、今回の知見はマウスのみを対象としたものであるため、チームは現在、同じ反応がヒトのNECでも見られるかを検証中とのこと。
それから加齢や喫煙によってNECの機能に変化が生じるかどうかも調べていく予定です。
私たちにとっては非常に身近で当たり前の「むせる」という反応ですが、意外なことに未だ完全に解明されておらず、まだまだ調べるべきポイントが残っているようです。