携帯電話の電波を使って遭難者を発見するシステム
コロナ禍での「3密」を避けてきたことや、アフターコロナの影響があるのか、現在、登山ブームが再来しており、これに伴い山岳遭難も増加しています。
日本では、警視庁の報告によると、2022年の山岳遭難者数は過去最多の3506人となりました。
また2023年夏季では、前年同期比23人増の809人となり、そのうち死者・行方不明者は前年同期比16人増の61人(夏季での過去最多)となりました。
こうした傾向は、世界でも同様だと考えられます。
「無謀な登山を行う人が増えている」という問題に対処する必要もありますが、それとは別に、一人でも多くの命を救うために、遭難者を救助する方法を改善していく必要もあるでしょう。
その課題に取り組んだのは、スペインを拠点とする会社「CENTUM research & technology」です。
彼らは「ライフシーカー」と呼ばれる遭難者発見システムを開発しました。
これは、小型の携帯電話基地局に似たようなものであり、ヘリコプターの外側に取り付けることで、いわば「移動する基地局」にすることができます。
山の中で迷ってしまった人たちは、携帯電話(スマホ)が通じないことで遭難してしまいます。
しかし、ライフシーカーを装備したヘリコプターは、その遭難者の携帯電話と交信することが可能です。
これにより、ヘリコプターに乗った捜索隊は、画面上の地図を使用しながら、半径3マイル(約4.8km)以内にある携帯電話を見つけることできるのです。
地形などの条件が良ければ、最大20マイル(約32km)も離れた携帯電話を検出できるというのだから驚きです。
そしてこの度、アメリカ・コロラド州のヘリコプター会社「コロラド・ハイランド・ヘリコプターズ」が、ライフシーカーを装備したヘリコプターのテストミッションを実施しました。
テストが行われたラプラタ渓谷では、両側に高い山々が連なっており、ふもとには深い森が広がっています。
起伏が激しい地形ゆえ、捜索隊が地上や空から遭難者を見つけ出すのは極めて難しい土地として知られています。
過去の捜索活動では、数週間も遭難者を見つけられず、捜索中止になることもありました。
コロラド・ハイランド・ヘリコプターズ社の捜索救助プログラムコーディネーターであるティム・ダーキン氏によると、「ヘリコプターで木々から100フィート(30m)離れたところを周回していても、木々が密集していて、そこに立っている人を見つけることはできない」ようです。
それでも、無線ベースのライフシーカーを使用するなら、携帯電話の場所を正確に検知できます。
そのプロセスをダーキン氏は次のように説明しました。
「携帯電話を検知すると、地図上に印が現れます。
そしてそのエリアを飛行すると、その印はどんどん小さくなり、ついには携帯電話がどこにあるのか正確に分かるようになります。
特定の場所を検出して焦点を合わせるプロセスには約1分しかかかりません」
そして今回行われたテストミッションでは、捜索隊が遭難者2人を2分14秒以内に発見することができました。
しかもこのライフシーカーを用いれば、遭難者にテキストメッセージを送ることができます。
例えば、ヘリコプターで救助できる開けた場所に移動するよう指示したり、負傷している場合にその場所から動かないようアドバイスしたりできます。
まさに捜索救助にピッタリな技術だと言えますね。
しかし、課題が無いわけではありません。