「帯状疱疹」と「ワクチン接種」
帯状疱疹とは、体の左右どちらかの神経に沿って発疹ができる病気であり、皮膚の痛みや違和感、かゆみなどが生じます。
この発疹はいずれ水ぶくれに変化していき、帯状に分布するようになります。
帯状疱疹は、多くのケースで上半身にみられ、胸のあたりだけでなく顔面に現れることさえあります。
帯状疱疹については、ストレスで起きる病気という認識を持っている人も多いかもしれません。
しかし、実際のところ帯状疱疹を起こしているのは、多くの人が子供のころに経験する水ぼうそうの原因である「水痘・帯状疱疹ウイルス」です。
このウイルスに初めて感染すると、まずは水ぼうそうとして発症します。
問題は水ぼうそうが治っても、このウイルスは症状を出さないだけで、背骨に近い神経に生涯にわたって潜み続けるという点です。
そのため日本の成人90%以上の体内に水痘・帯状疱疹ウイルスは潜伏しています。そして、加齢や疲労、ストレスなどによって免疫機能が低下すると、帯状疱疹として再び姿を現すのです。
免疫低下が原因であるため、50歳以上の人は帯状疱疹の発症率が高く、その対策の1つとして予防接種があります。
ワクチン接種により免疫の強化を図り、発症リスクを低下させるというわけです。
そしてこの水痘・帯状疱疹ウイルスに関しては、もう1つ興味深い報告がありました。それが、このウイルスが脳に与える影響によって認知症リスクが増加している可能性です。
そのため研究者たちの間では、帯状疱疹ワクチンは認知症リスクを低下させるのではないかという期待が持たれていたのです。
ちなみに、この帯状疱疹ワクチンには、「シングリックス」「ゾスタバックス」と呼ばれる二種類があります。
最初に出てきたワクチンはゾスタバックスで、アメリカでは2006年に導入されて、その後多くの国で用いられてきました。
ただこのゾスタバックスは年齢の上昇とともに効果が落ちてしまい、特に50歳以上の成人に対する予防効果はあまり高くありませんでした。
そのため、認知症リスクに関してもその予防効果はあまり明確に確認できずにいたのです。
しかし現在、帯状疱疹ワクチンはより効果的とされる新しいシングリックスに切り替わっています。(アメリカでは2017年に帯状疱疹の予防接種は、シングリックスへ変更されています)
シングリックスの大きな違いは、ゾスタバックスの問題点であった加齢による予防効果の減少が改善されている点です。特にシングリックスは50歳以上の成人に対して予防効果が高いとされています。
そこで、オックスフォード大学のタケット氏ら研究チームは、新しい帯状疱疹ワクチンであるシングリックスならば、これまで予想されていながらも明確に確認できずにいた認知症リスクの低下効果を明らかにできるのではないかと考え調査を行ったのです。