植物学賞:一部の植物には視覚があり隣の植物の形状を模倣している
3番目に紹介するのは、植物に視覚がある可能性について言及した「植物学賞」になります。
論文の著者であるジェイコブ・ホワイト氏とフェリペ・ヤマシタ氏は当初、熱帯雨林に生えているギンバイカと呼ばれる低木の研究をしていました。
ギンバイカの葉は船型の形状をしており、先端に向けて細くなっています。
しかし研究者たちがよく観察してみると、ギンバイカの葉だと思っていた葉の一部が、B. trifoliolata(ボキラ・トリフォリアータ)と名付けられた「つる植物」から生えていたことに気が付きました。
通常のB. trifoliolataの葉は3つ股に別れた形状をしていることが知られており、ギンバイカの船型の枝分かれの無い葉とは大きく形状が異なります。
そこで研究者たちはその日の探索をB. trifoliolataに集中することにしました。
すると驚くべきことに、発見されたB. trifoliolataの約半分が、巻き付いている宿主の葉や、隣接する植物の葉に似た形状をしていることを発見します。
上の図の黄色の矢印で示したものがB. trifoliolataです。
よく見ると、B. trifoliolataの隣にある植物の葉に似た構造に変化していることがわかります。
擬態の精度はそこまで高くありませんが、単一の植物がここまで多様な葉の形態をとることは驚きです。
そこで研究者たちは、B. trifoliolataには植物特有の単眼を介した視覚システムがあると考え、プラスチックの葉を使った実験を行うことにしました。
もしB. trifoliolataが植物ホルモンをはじめとした生化学的な方法で擬態を行っているのならば人工的なプラスチックの葉を真似ることは不可能なはずです。
無生物のプラスチックは有用な揮発性物質を放出したりしないからです。
一方、B. trifoliolataが視覚的な方法を採用している場合、プラスチックの葉でも問題なく擬態ができるはずです。
結果、B. trifoliolataはプラスチックの葉を見事に模倣していることが判明。
研究者たちはB. trifoliolataは近くの植物の葉の形状を視覚的に検知することで模倣を達成していると結論しました。
植物に目のような仕組みがあるとする主張に対して多くの植物学者たちから意義が唱えられていますが、生きていないプラスチック葉の形状を模倣するには、視覚情報以外に説明のしようがないのも事実です。
ただ視覚情報を処理して擬態を達成するには、視覚情報を処理する脳のような複雑な情報処理システムが必須です。
一部の研究者たちは植物の根が神経回路のように情報処理を行っていると主張していますが、詳しいことはわかっていません。
もしB. trifoliolataの模倣の仕組みが視覚的なものであることが実証されれば、イグノーベル賞ではなくノーベル賞が贈られることになるでしょう。