水中に数十分も居続けられる
アノールトカゲの不思議な潜水能力が報告されたのは2018年頃のことです。
米ニューヨーク州立大学ビンガムトン校の生物学者であるリンジー・スウィアーク(Lindsey Swierk)氏が、中米コスタリカの熱帯雨林を流れる渓流を歩いていたときのことでした。
スウィアーク氏はある1匹のアノールトカゲが川沿いから水の中に飛び込み、数十分間も水中に留まり続けた様子を目撃したのです。
そこでスウィアーク氏は水中にカメラを設置し、アノールトカゲがどのように潜水しているのかを観察することに。
するとアノールトカゲは鼻先に空気の泡を作り、それをエアポケットにして呼吸していることがわかったのです。
エアポケットはまさに鼻ちょうちんのように膨らんだりしぼんだりしており、アノールトカゲが呼吸していることを示していました。
当時の観察では、この小さなエアポケットだけで水中に16分間も潜水していられることが確認されています。
潜水行動の目的はおそらく、天敵から身を隠すためだと推測されました。
コスタリカの熱帯雨林には大小さまざまな生物が暮らしており、その中でもアノールトカゲは非常にか弱い存在です。
特に足が速いわけでもないので、陸上で鳥やヘビに見つかってしまえば、ほとんど逃げ切ることはできません。
そうした中で、水中にしばらく身を隠す生存戦略を編み出したのでしょう。
しかし一方で、スウィアーク氏は「アノールトカゲの潜水において、このエアポケットが本当に呼吸のための機能的な役割を果たしているのかどうかは検証されていませんでした」と話します。
もしかしたら鼻先のエアポケットはトカゲの皮膚の特性により生じる副次的なもので、実際にはエアポケットがなくても、アノールトカゲは数十分間の潜水が十分に可能かもしれないのです。
そこでスウィアーク氏ら研究チームは、エアポケットがある場合とない場合でアノールトカゲの潜水時間に違いが現れるのかを検証しました。