マンモスは「花粉症」で絶滅した?
花粉症は花粉に対するアレルギー反応によって起こる疾患で、くしゃみや目の痒み、鼻水や鼻づまり、熱っぽさといった不快な症状を伴います。
しかし人では花粉症がいくら重症でも死に至ることはありませんが、研究者らは「マンモスなら花粉症で種の絶滅もあり得る」と話します。
彼らが提唱した仮説とはこうです。
まず、最終氷期の終わりに起こった温暖化により、植物が大量に繁茂し始めます。
それにともない、植物から膨大な量の花粉も空中に放出されるようになりました。
この大量の花粉を吸い込んだマンモスがアレルギー反応を起こし、鼻づまりのような症状を起こして、嗅覚に支障をきたします。
マンモスは、近縁種である今日のゾウたちがそうであるように、仲間同士のコミュニケーションに嗅覚を非常に重視したと考えられています。
ところが花粉症のせいで嗅覚が落ちたマンモスは、繁殖相手となるパートナーを匂いで探すことができなくなり、それが原因でオスメスのつがいが形成できずに個体数が徐々に減少。
この状態が続いた結果、マンモスが種としての絶滅を迎えたというのです。
永久凍土から回収されたマンモスの遺体を調べた複数の研究では、体組織の表面や胃の内容物に多くの花粉が検出されているため、マンモスのいた当時に花粉がたくさん蔓延していたことは確かでしょう。
しかしながら問題は「マンモス自体に花粉症を起こす体質があったかどうか」です。
花粉が大量に舞っていたとしても、体がそれに反応しなければ花粉症にはなりません。
では、花粉症を発症するのに必要なキーポイントを見てみましょう。
マンモスも「花粉症」を発症した可能性はあるのか?
まずもって花粉症とは、体の免疫システムが花粉を異物としてみなし、過剰に働いてしまうことで起こるアレルギー反応です。
このとき、アレルギー反応を起こす原因物質を「アレルゲン(抗原)」と呼び、ここでは花粉がアレルゲンに当たります。
そして花粉のアレルゲンに敏感に反応してしまう人は、花粉が体内に入ったときにそれを排除しようとして「IgE抗体」という物質を作り出します。
この「IgE抗体」こそがキーポイントです。
体内にIgE抗体が作られた後に再び花粉(アレルゲン)が入ってくると、IgE抗体がアレルゲンと結びついて、免疫細胞が過剰に働き、アレルギー反応を起こすに至るのです。
つまり、花粉症を起こすにはアレルゲンと結びつく「IgE抗体」を持っていなければなりません。
そこでチームは今回、過去にシベリアの永久凍土で発掘されたマンモスの体組織サンプルを調べてみました。
体内で作られたIgE抗体の一部は消化器官を通って便として排出されるため、マンモスの胃の内容物を詳しく調べてみることに。
その結果、チームの予想通り、マンモスの体内からIgE抗体を構成するタンパク質断片が発見されたのです。
研究主任のグレブ・ジルバースタイン(Gleb Zilberstein)氏は「数万年前のマンモスの遺体からIgE抗体を見つけたのは今回が初の成果です」と話します。
この証拠はマンモスの免疫システムがアレルゲン(花粉)に反応して、アレルギー反応(花粉症)を引き起こしていた可能性を示唆するものです。
よって「花粉症でマンモスが絶滅した」という大胆な仮説もまったくあり得ない話ではないことがわかりました。
とはいえ現段階で集められた証拠だけではまだ、この新説が従来の「気候変動」や「人類の狩猟」シナリオよりも説得力があるものとは言えません。
「花粉症」説を確かなものとするには、さらなる物的証拠が必要です。
ただ現実的な見方をすると、花粉症がメインになってマンモスを絶滅に追いやったというよりも、気候変動や人類の狩猟にプラスして、花粉症がマンモスを弱らせるのに加担したと考える方が妥当かもしれません。