なぜロックダウンが月を冷やすのか?
月世界は地球とは違って、人が生身で生きられるような場所ではありません。
月は大気が非常に薄いため、地球のように太陽熱を大気層で和らげることができず、昼間は相当暑くなります。
また逆に、大気の薄さから太陽熱を吸収して保持できず、すぐに宇宙空間へと放熱してしまうため、夜間は急激に冷え込みます。
そのため、月の表面温度は日変化が異常に大きく、昼間は約110℃まで気温が跳ね上がり、夜間はマイナス170℃程度まで急落するのです。
一方で、地球も同様に太陽熱を受けており、その一部は大気に吸収され、残りは宇宙空間に放熱されています。天気予報で寒い日に「放射冷却の影響」と説明しているのを聞いたことがあると思いますが、それがこの宇宙空間への放熱を指します。
月面はこの地球からの放熱の影響も受けているわけです。
これを踏まえて研究チームは「地球からの放熱量が少なくなると、それに伴って月面の温度も少し下がるのではないか」との仮説を立てました。
特にその影響が顕著に確認できると予想されるのは、夜間の月です。
昼間は太陽からの放射熱や月面の内部熱流などがあるため、地球の放射熱の影響を見分けるのはほぼ不可能でしょう。
そこでチームは今回、地球の放射熱が月面に与える影響を調べるため、新型コロナ期間の「ロックダウン」に注目しました。
2019年末に始まった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは、翌2020年から世界中でロックダウン(都市封鎖)を展開させるに至りました。
中でも最もロックダウンが厳格に行われたのが2020年4〜5月にかけてです。
この期間は人的活動が世界規模で激減し、温室効果ガスやエアロゾルの排出量も大幅に減少して、地球から宇宙空間へと放出される熱量が下がりました。
つまり、ロックダウンによる地球の放射熱の減少が月面の夜間温度にも影響を及ぼした可能性があるのです。
チームはこの仮説が正しいかどうかを検証してみました。