もう一つの隕石はどれほどの威力があったのか?
本調査では隕石衝突時の詳細を理解するため、3次元地震探査(3D seismic imaging)という技術を使ってナディール・クレーターの画像化を行いました。
3次元地震探査は、人工的に発生させた音波が地下の層を通過する際、異なる地層や物質によって音波の反射の仕方が変わる性質を利用して、地下構造を立体的に可視化する技術です。
この技術は主に地震活動の調査のほか、石油や天ガス資源の探査のために使われています。
今回は西アフリカ・ギニア沖の海底下300メートルにあるナディール・クレーターの地質学的な特徴を画像化。
その結果、目に見える海底表面のクレーター部分だけでなく、目には見えない地下の構造まで詳しく明らかにすることに成功しています。
ここで得られた鮮明な画像は、隕石衝突後にどのようなことが起こったかを予測するのに役立ちました。
まずナディール・クレーター自体は直径8.5キロメートルあり、直径160キロメートルのチクシュルーブ・クレーターよりはずっと小さななものでした。
クレーターの形状の分析から、ギニア沖に落下した隕石は直径450〜500メートルで、時速7万2420キロのスピードで直撃したと推定されています。
また隕石の衝突は激しい揺れを引き起こすと同時に、非常に強烈な爆風と高さ800メートル以上の巨大な津波を引き起こしていたとのことです。
加えて、隕石落下〜ナディール・クレーターが形成されるまでのプロセスも明らかにされています(下図を参照)。
それによると、海底の堆積層は隕石の凄まじい熱エネルギーによって一時的に液状化。
衝撃の反動で地下層が隆起して、徐々に冷えていくことでそのまま固まり、下図のようにクレーターの中央に小山のような凸部が生じました。
これはチクシュルーブ・クレーターにも同じように見られる特徴です。
以上の結果から、ナディール・クレーターを生み出した隕石落下はチクシュルーブが招いた大惨劇よりはずっと小規模だったものの、落下地点の周辺一帯に生息していた動植物は即死レベルの被害を受けたと考えられます。
つまり、白亜紀末に地球に飛来した”もう一つの隕石”は確かに、恐竜たちの絶滅を推し進めるのに一役買っていたのです。
その一方で、研究者らはこの隕石がチクシュルーブ衝突体より先に落ちたのか、後に落ちたのか、その正確な時期を特定できていません。
そして、なぜ同時期に2つの隕石が地球に当たったのかも不明です。
チクシュルーブ衝突体が宇宙空間で割れて小さな隕石が生じたのか、それとも隕石のクラスターが白亜紀末に飛来して、そのうちの2つが地球にたまたま当たったのか。
この謎の解明にはさらなる調査が必要でしょう。
しかし、落下位置や時期が近いことから、この2つの隕石に何らかの関連があった可能性は高そうです。