見慣れた卵の中身が「ヒヨコ」になるプロセスを完全解明!
チームはまず、従来の無卵殻培養法で0日胚を培養すると、胚が正常に発生しなくなる原因を突き止めることに。
発生の停止した胚をよく観察したところ、3日目の時点で「胚盤葉(はいばんよう)」の表面を覆う膜が乾燥してしまっていることに気づきました。
胚盤葉とは黄身の中央にある白っぽい円形部で、直径はだいたい6〜13ミリあります(下図を参照)。
ニワトリの受精卵は、母親の体内でまだ卵の殻に包まれていない段階で、部分的な卵割(受精卵が細胞分裂して細胞の数を増やすこと)を始めます。
そうして約5万5000個の細胞の塊となったのが胚盤葉です。
この胚盤葉ができた後に卵の殻が作られて、体外へと産み落とされます。
チームの観察によると、卵の殻の外では、胚盤葉の表面を覆う膜が乾燥してしまうことで胚の正常な発生を妨げられていると考えられました。
そこでチームは、胚盤葉を覆う膜が乾燥しないように設計した人工培養の装置を開発。
具体的には、透明なフィルム製の容器を7度に傾けた状態で天板が回転する装置を開発し、容器内の湿度環境を適度に保ちながら、受精卵を定期的にやさしく振り動かしました。
こちらがその装置です。
その結果、見事に胚盤葉を覆う膜の乾燥が防がれ、3日胚の生存率が従来の4倍以上に向上し、0日胚から21日目までを完全に可視化することに成功したのです。
これまでブラックボックスとなっていた産卵直後の3日間の発生プロセスも解明され、黄身からヒヨコに変身するまでの全貌を丸裸にすることができました。
そのプロセスをまとめた写真がこちらです。
ちなみに右下のニワトリは、この方法で生まれたヒヨコが大人になった個体となります。
こうしてみるとわかるように、私たちの見慣れた黄身の部分に胚が発生し、4日目辺りから黄身の中に血管系が発達し、胚に栄養を供給し始めていることがわかります。
そして発生が進むと、黄身が消費されていき、この部分が完全にヒヨコへと変わっていきます。
こうして見るとグロテスクではありますが、卵の中でヒヨコが成長するすべての栄養を黄身が賄っていることがよくわかります。卵の黄身が栄養満点な理由もここから実感できますね。
今回の成果により、古代ギリシャの時代から長く続く謎を完全解明することに成功しました。
まだこの方法で100%の孵化率を達成しているわけではありませんが、改良を進めることで、ヒヨコの発生プロセスの全貌を百発百中で可視化できるようになるでしょう。
この知見はニワトリ胚の発生プロセスの理解といった基礎研究だけでなく、遺伝子改変を加えたときの発生の仕方の変化や、奇形(形態異常)を引き起こす化学物質を与えたときの毒性試験など、幅広い応用が期待されています。
記事内の解説を一部修正して再送しております。
黄身がひよこになるというのはミスリードなんじゃないですか
黄身は鶏卵の中で成長するヒヨコの栄養源であり実際にヒヨコになるのは胚ですよ