傷つくと2匹が1匹に融合できた!一体なぜ?
ムネミオプシス・レイディの新能力は偶然に見つかったものでした。
研究室の海水タンクでムネミオプシス・レイディの集団を飼育していたときのこと。
ある日、研究者が海水タンクを様子を観察したところ、1匹だけ特に大きな個体がいることに気づいたのです。
しかもその個体は単に大きいだけでなく、胴体が2つあり、明らかに2匹の個体がくっついていることを示していました。
このことから研究チームは「ムネミオプシス・レイディは互いの体を融合させる能力を持っているのではないか」との仮説を立て、実験を開始することに。
まず20匹のムネミオプシス・レイディを用意し、体の組織の一部をスライスして切り取ります。
次に2匹のペアを計10組作り、そのペアごとに同じ水槽内に入れて一晩寝かせてみました。
すると翌日、非常に驚くべきことに、10組中9組のペアが互いの体をくっつけて1匹になっていたのです。
驚きはそれだけに留まりません。
そのプロセスをよくよく観察してみると、傷ついた2匹の個体はわずか数時間で互いにくっつき、最初はそれぞれの体が独立して動いていましたが、2時間後には動きが完全に同期するようになったのです。
こちらは片側の個体を突っつくと、反対側の個体も反応することを示した動画になります。
※ 音声はありません。
この映像から分かるように、彼らは合体後、互いの神経系までも融合させて完全に1匹の個体として動けるようになっていたのです。
さらに神経系だけでなく、2匹の消化器官も融合しており、餌を片側の個体に与えると、餌が隣の個体の消化器官にも運ばれて、2匹とものお尻から消化されたウンチが排泄されたのです。
合体から2時間後には全身の筋収縮の95%がシンクロするようになっていたといいます。
では、若返りの秘術を持つムネミオプシス・レイディが「再生」ではなく「合体」を選んだのはなぜでしょう?
それについて研究者らは「傷ついた2匹が互いに融合する方が、1匹の再生に比べて損傷からの回復がはるかに早くなることが要因でしょう」と指摘します。
ケガをした個体が幼生に戻って、そこから再び成体となるには少なくとも数週間はかかります。
しかし仲間同士の合体であれば、わずか数時間で済むのです。
これは常に天敵に狙われる厳しい野生下では大きなメリットとなるでしょう。
またチームは仲間同士の完全な融合が可能な理由について、「ムネミオプシス・レイディに自己意識をコントロールする脳中枢がないことが関係しているだろう」と話します。
例えば、一つのイメージとして、2人の人間が頭から下の半身を失ってしまい、お互いに体を合体させた場合。
人間には自己意識をコントロールする脳がありますから、合体後も2人の人格が残っており、それぞれに体の所有権があります。
この状態では体の動きが同期せず、一方が「おい、こっちに行くぞ」と言えば、もう一方が「いや、俺はあっちに行きたい」と意思がバラバラに働いてしまうのです。
しかしムネミオプシス・レイディにはそもそも脳中枢がなく、神経系と外部刺激との相互作用による本能的な反射反応によって動いているため、仲間同士のすんなりとした完全なる融合が可能なのだと考えられます。
一方でチームはこの合体が野生下でも起こり得るかどうかを確認できていません。
広大な海では傷ついた仲間同士が互いに近くにいないケースが普通にあるため、実験下に比べて合体は起こりにくいと考えられます。
チームは今後、野生下でも2匹の合体が起こるのか、そして2匹の神経系はどのように融合していくのかを明らかにしたいと考えています。
やっぱ深海はわからないことだらけだな