スパイダーマンの武器「ウェブシューター」を本気で再現する!
スパイダーマンは米マーベル・コミックが生み出したスーパーヒーローで、コミックの他、これまでに多数の映画シリーズが製作されています。
2002年から始まる第一シリーズ『スパイダーマン』3部作では、主人公ピーター・パーカーの体内で作られたクモ糸が手首から直接発射される設定になっていました。
しかしリブート版の『アメイジング・スパイダーマン』(2012)以降は、ピーター・パーカー自らがクモ糸発射装置である「ウェブシューター」を作って手首に装着する設定が主流となっています。
ウェブシューターはスパイダーマンを特徴づける最大の武器であり、建物の下敷きになりそうな市民を救出したり、ターザンのように建物間を飛び移る空中移動、それから悪党の目潰しや捕縛に使われています。
ウェブシューターが実際に開発できれば、きっと皆さんも一つは欲しくなるでしょう。
開発の突破口が偶然に開ける!
タフツ大学のシルクラボ(Silklab)は以前から、カイコが作り出すシルク(絹糸)を使った開発研究を行ってきました。
原料となるのはカイコの繭(まゆ)を溶液で煮ることで得られる「フィブロイン」です。
フィブロインはカイコの絹糸の主成分であり、糸を構成するタンパク質を指します。
フィブロインは「結晶性が高く、水に溶けない」「頑丈で、絹糸の引張強度は針金の強度に匹敵する」「生体への安全性が高く、外科用の縫合糸にも使える」といったメリットがあります。
シルクラボはすでに、フィブロインを応用した「革製品に似た素材」「水中でも使える接着剤」「農作物の保存期間を延ばす食用コーティング」などの開発に成功してきました。
その一方で、スパイダーマンが使うウェブシューターのような絹糸発射装置を再現するまでには至っていません。
ところが突破口は偶然に開かれました。
ある日、研究員がフィブロイン溶液(フィブロインを含有する溶液)を使った接着剤の開発プロジェクトに取り組んでいたときのこと。
フィブロイン溶液の入っていたガラス容器を「アセトン」という有機化合物で洗浄していた折、ガラスの底にクモの巣そっくりの繊維組織ができていることに気づいたのです。
それは半固体のぶよぶよしたヒドロゲルでした。
研究員が調べてみると、フィブロイン溶液はアセトンと反応することで固化することがわかりました。
シルクラボの研究チームはこれを見て、「スパイダーマンのウェブシューターを再現するのに使えるぞ!」と考えたのです。