正常な遺伝子をウイルスに詰めて網膜にお届けする
試験にあたっては健康な人から抽出した正常なGUCY2D遺伝子をアデノ随伴ウイルス(AAV5)に組み込み、このウイルスを含む薬「ATSN-101」を網膜下に注射し、ウイルス感染を起こします。
使用されたアデノ随伴ウイルスは自身の持つ遺伝子を人間の遺伝子に送り込む機能を持っており、感染によって正常なGUCY2Dを患者の網膜細胞に届けることが可能になります。
正常な遺伝子が届けば、視細胞で不足していた酵素が生産されるようになり、光を感知する能力も回復する可能性があります。
研究では3人の小児を含む15人が参加しており、様々な容量のATSN-101が投与されました。
また患者たちは薬の投与後、回復レベルを調べるために、さまざまな明るさに設定された簡単な経路を進むテストが行われました。
患者の重症度には個人差があったものの、治療前では患者の多くが経路を進むのに困難を感じていました。
しかし治療を開始してから1カ月で症状に改善がみられ、一部の患者では視力が100倍改善し、最大投与量を与えられた9人中2人では1万倍の視力の改善がみられました。
(注意:元の視力が低いほど改善した時の倍率が高くなります。例:0.01➔0.8で80倍)。正常な視力を持つ人に投与しても、視力が100倍になるわけではありません)
このような劇的な改善は、プラセボ効果で説明できるものではありません。
試験はフェーズ1および2の段階ですが、この時点で大きな治療効果が出ていると言えるでしょう。
また症状が改善した患者のなかには、数十年以わたりほぼ失明にあった人も含まれていました。
幼児のとき以来、家族や兄弟の顔を久しぶりにみた感想はどんなものだったのでしょうか?
一方で心強いことに、重篤な副作用は確認できませんでした。
研究者たちはこれまでの研究成果を総合すれば、遺伝性網膜疾患による乳児失明の20%に遺伝子治療が実行できると述べています。
「遺伝子を書き換えて病気を治す」という治療法は、半世紀前まではSFの話に過ぎませんでした。
もしかしたら近い未来、遺伝子疾患であっても、簡単に治せる時代がやってくるかもしれません。