一時的なストレスで逆に炎症は緩和する?
私たちの体には、異物が体内に入ってきたり、細胞が異常を起こすと、それを排除して体を守ろうとする免疫システムが備わっています。
例えば、ウイルスが体に侵入して免疫システムを刺激すると、白血球などの免疫細胞が出動し、ウイルスを退治しようとします。
その戦いの中で体内が部分的に赤くなったり、腫れたり、熱を持ったりします。
こうした免疫システムの防御反応の一つとして生じるのが「体内炎症」です。
体内炎症は誰の体でも起こっていますし、しばらくすれば自然に治りますが、体内炎症が慢性化する場合があります。
例えば、ウイルスに度々感染していたり、心理的ストレスの多い職場や有害物質の多い環境で生活していたり、肥満や運動不足、喫煙、睡眠不足、暴飲暴食などで生活習慣の質が低下すると、体内炎症が続いて慢性化しやすくなります。
炎症の慢性化は体を傷つける活性酸素を除去しきれなくなった「錆び体質」に例えられ、あらゆる病気に罹りやすい状態にあるのです。
一例を挙げると、糖尿病やがん、高血圧や動脈硬化などの心血管疾患、関節リウマチや炎症性腸疾患を含む自己免疫疾患、他にも咳や皮膚のかゆみ、腹痛、下痢の増加があります。
そのため、体内炎症を緩和することは非常に重要なのです。
一方これまでの研究で、一時的な身体ストレスへの曝露(例えば、低温刺激を受けるなど)が体内炎症を有意に緩和しうることが示唆されてきました。
これは突発的なストレス刺激が体内のアドレナリン作動系を活性化し、種の生存に欠かせない「闘争・逃走反応(fight-or-flight response)」を引き起こしてくれるからです。
闘争・逃走反応は、危機的状況に陥ったときに戦うか逃げるかを選択する反応であり、恐怖体験を生き延びる上でヒトを含む多くの動物に備わりました。
そして闘争・逃走反応は、抗炎症作用を持つ「コルチゾール」というホルモンの分泌を促し、これが体内炎症の緩和に繋がっていると考えられています。
つまり逆説的ではありますが、ストレスは一時的で短いものであれば、健康に逆にいい可能性があるのです。
しかし他方で、心理的なストレス刺激とされる「恐怖体験」が同じように体内炎症を緩和させるかどうかは不明でした。
この謎を解き明かすべく、研究チームは被験者をおばけ屋敷に入れる実験を試みました。