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Credit:clip studio . 川勝康弘
physics

加熱の反対は冷却ではないと判明! (2/2)

2024.12.24 17:00:28 Tuesday

前ページ加熱の反対が冷却という常識は正しいのか?

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加熱と冷却は確率分布が進む道のりそのものが違う

この図は、シリカ粒子の運動(振動)と時間経過による状態の変化を記録し、加熱と冷却の違いを示しています。横軸は「時間」、縦軸は「統計的な変化量」(例えば、エネルギーやエントロピーの差異)を表しています。赤いラインは、粒子が低温から高温に加熱される際の状態変化を表しています。青いラインは、粒子が高温から低温に冷却される際の状態変化を示しています。加熱は「短い時間で多くの変化を一気に進める」のに対し、冷却は「徐々に変化を進める」ため時間がかかります。粒子の確率分布が進む経路(統計的距離)そのものが異なり、同じプロセスを逆行しているわけではないことを示しています。
この図は、シリカ粒子の運動(振動)と時間経過による状態の変化を記録し、加熱と冷却の違いを示しています。横軸は「時間」、縦軸は「統計的な変化量」(例えば、エネルギーやエントロピーの差異)を表しています。赤いラインは、粒子が低温から高温に加熱される際の状態変化を表しています。青いラインは、粒子が高温から低温に冷却される際の状態変化を示しています。加熱は「短い時間で多くの変化を一気に進める」のに対し、冷却は「徐々に変化を進める」ため時間がかかります。粒子の確率分布が進む経路(統計的距離)そのものが異なり、同じプロセスを逆行しているわけではないことを示しています。 / Credit:M. Ibáñez et al . Nature Physics (2024)

調査にあたっては1μmのシリカ粒子を光トラップによって1カ所に固定し、外部から電場を操作して振動させることで有効温度の制御を行う仕組みが用意されました。

有効温度は、粒子がどれだけ激しく振動するか(エネルギーが粒子にどの程度注入されるか)を示す指標で、実際の物理的温度に対応します。

簡単な言い方をすれば、粒子が激しく振動しているときは高温状態で、緩やかに振動しているときは低温状態を、それぞれ反映しているわけです。

そして高感度センサーを使用し、シリカ粒子の有効温度が上がる過程(加熱状態)と下がる過程(冷却状態)の両方で粒子の位置と動きを2万4000回にわたり記録しました。

これにより0.02秒ごとのシリカ粒子の振動状態が明らかになります。

粒子の位置と揺らぎを記録することは、熱力学における「微視的状態(microstate)」を直接観測することに相当します。

多数の粒子で構成される材料では、膨大な組み合わせの状態(微視的状態)が存在し、それをすべて記録することは事実上不可能です。

しかし研究では単一粒子を対象に繰り返し測定を行うことで、粒子が取りうる微視的状態の分布をマッピングし、これにより粒子がどのようにエネルギーやエントロピーを変化させるかを確率分布の形で可視化(見える化)できるようにしました。

ある意味で、シリカ粒子の震えかたによって温度を測る仕組みを作ったのです。

準備が整うと研究者たちは加熱または冷却が行われる際に、そのときにシリカ粒子がいくつの異なる状態を経るかを調べました。

もし加熱と冷却が共通プロセスを持つならば、加熱するときも冷却するときも「震えるシリカ粒子の温度計」は鑑合わせのような挙動をするでしょう。

あえて擬音をつかって表現すれば、加熱するときの震えかたが

「ブル➔ブルル➔ブルブル➔ブルルブルル➔ブルルンブンブン」

であるならば、冷却するときはその真逆の

「ブルルンブンブン➔ブルルブルル➔ブルブル➔ブルル➔ブル」

となるはずです。

しかし研究者たちが分析を行ったところ、加熱するときと冷却するときでは、観察される粒子の運動状態のパターンが異なっており、加熱プロセスのほうが通過する振動パターンのバリエーションが少ないことが明らかになりました。

再び擬音を使って比較すれば実際の観測データは

加熱では「ブル➔ブルブル➔ブルルンブンブン」と短いのに

冷却では「ブルルンブンブン➔ブルルブルル➔ブルブル➔ブルル➔ブル」と長くなっていたわけです。

通過する必要がある振動パターンが少ないということは、加熱が冷却よりも早く進む理由になり得ます。

(※より正確には、加熱のときは「自由膨張」に近い挙動が見られ、粒子のエネルギー分布や位置分布が、ある種“開放的”に広がっていく一方で、冷却のときはエネルギーを放出する必要があり、粒子はより多くの中間状態(確率分布)をへながらゆっくりと落ち着いていくことが観察されました。擬音や矢印は状態のバリエーションを示す便宜上の表現となっています)

またこの違いは加熱と冷却の間では「確率分布が進む道のり」そのものも違っており、まるで別の物理現象だといってもいいほど非対称的なふるまいを示すことを示しています。

専門家の1人はこの結果について「今回の研究が発見したものはこれは熱力学の第二法則を発展させたもので、熱力学の追加法則と言えるかもしれない」と述べています。

熱力学の第2法則は、「高温の物体は自然に冷却される」という方向性(不可逆性)を示します。

しかし、この研究では、加熱と冷却の速度が異なることを明らかにし、第2法則の範囲を速度にまで拡張する可能性を示唆しています。

より簡単に言えば、これまでの法則は「高温のものが冷めるのは当たり前」という話だけが強調されがちでしたが、今回の研究によって「冷めるのは当たり前でも、速さは加熱ほどスムーズじゃない」という新しい追加法則がうみだされたとも言えるでしょう。

研究者たちは今回の研究成果を応用できれば、微小なスケールでの熱管理やエネルギー変換技術を大きく改良する可能性があると述べています。

もしかしたら未来の世界では電子レンジの隣に瞬間冷却機が並んでいるかもしれません。

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加熱の反対は冷却ではないと判明! (2/2)のコメント

おじさん

そもそも本実験の加熱と冷却の方法が公平に見えないから何とも言えない。
特に加熱がねー、格子振動と回転と重心運動の自由度にエネルギー等分配しているように見えない。
格子振動だけ贔屓してそう。
そもそも普通の熱平衡状態の熱力学的温度を測れてなさそうなんだよなー。

    Contents について

    は原著の Matters Arising に投稿してください。

    おさん

    エネルギーを与えても温度として現れない分があるってことですか?

ゲスト

ムペンバ効果とも関係ありそうな無さそうな。どうなんでしょうかね

    名無し

    食べる時とうんこ出すときの力みの違いってことで合ってますかね

ロゥレベル・バーチャルマキナ

非常に面白いですね!というか非平衡ってブルーオーシャンなのかなと思っちゃいました。この時代に追加法則がみつかるってすごい!この追加法則に合わせて十分リッチな平衡系の熱力学にさらなる恵みがもたらされる?!指数関数の代わりにどんな関数が分布を生み出すんですかね!!✨

ゲスト

唯一の尺度は原義のカオス≒ネゲントロピー

原始人

仮に急速冷凍機を作るなら、1つの粒子を複数に分割して冷却した後再統合するとか、粒子の存在確率を虚数次元に移相してこの次元上の見た目の存在を削るとかしないと難しいって話なのかな。
制限速度は厄介ですね。夢が広がります。

ゲスト

粒子の状態観測で反応経路の違いが分かるって、面白い実験だ

家事オヤジ

面白いですね!!
子供部屋の掃除には時間かかるけど、散らかすのは一瞬だよね~って思いながら読んでいました。
毎週末苦労しています。。。

ゲスト

ゲッチンゲンの連中か。シュツットガルトの面々はどう見ているのか知りたいな。

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