熟練ピアニストが直面する「成長の限界」
熟練ピアニストたちは、練習すればするほど技術が向上するという単純な成長曲線が、ある地点で平坦化してしまう現象を経験します。
どれだけの努力を費やしても、一定以上の速さや正確さを実現できないという壁に突き当たるのです。
この現象は、指の物理的な速さの限界や、脳内で既存の神経経路が固まることで生じるとされています。
では、どうすればこの壁を打ち破れるのでしょうか。
ここで鍵となるのが「新しい感覚体験」です。
人間の脳と体は、未経験の動きや刺激に触れることで、これまで使われていなかった神経経路を活性化し、新たなスキルを学習する能力を持っているのです。
とはいえ、熟練者が通常の練習で新しい刺激を得ることは困難です。
たとえ意識して速く弾こうとしても、従来の動きのパターンを超えるのは容易ではありません。
そこで古谷氏ら研究チームは、「受動的な運動による新しい感覚刺激」が天井効果を克服する可能性に着目しました。
外骨格ロボットグローブでピアニストの指を自動的に動かし、通常の運動速度を超える複雑な動きを体験させるというのです。
これまで外骨格技術は、医療リハビリテーションや産業分野で広く活用されてきました。
例えば、脳卒中患者のリハビリや、重い荷物を持つ作業員の負担軽減に役立てられてきました。
これらの分野では、外骨格が、主に人間の運動能力を補助し、回復を支援する目的で使用されます。
しかし今回の研究では、従来のように「人間の能力を補う」ために外骨格を使用するのではなく、「人間の能力を拡張し、限界を超える」ため活用しようというのです。