重力波通信の概念図
今回の論文では、「重力波を情報の運び手」とみなしたときに、空間を伝播する過程でどのような変化が起きるのかを体系的に整理しよう、というアプローチが取られています。
一般に通信工学では「どんな雑音・歪みが載るか」を定義し、その特性に合わせて変調や符号化を最適化します。
重力波通信でも同様に、「重力波が送信源(質量分布のゆらぎ)から受信器(検出装置)に届くまでの間」に生じうる現象を洗い出し、概念図として示しています。
この図は、「重力波を使って情報を送るとき、送信機(TX)から受信機(RX)に波が届くまでにどんな影響があるか」をまとめたものです。
ブラックホールなど強い重力場による影響(周波数シフト:Frequency Shifts)、宇宙が膨張していることによる影響(振幅減衰 :Signal Attenuation)、背景の重力場や磁場などによって、波の振動方向が少し回転したり歪んだりする影響(偏波変化:Polarization Changes)、重力レンズ効果などによる影響(位相の歪み・フェージング:Phase Distortion & Fading)などの通信に影響する要素が含まれています。
この図のすごいところは、電波通信では当たり前になっている「どんなところで波形が変化し、どんなノイズが乗るのか」を重力波に当てはめて整理した点です。
普通なら障害物を通ると減衰してしまう電磁波とは違い、重力波では宇宙膨張や強力な重力場が波を歪ませる主な要因になります。こうしたモデルがあれば、どの周波数帯を使えばいいのか、どうやって変調や符号化を行うか、受信側で雑音にどう対処するか、などを考えやすくなるのです。
もし技術が進んで人工的に重力波を作って検出できるようになれば、この図に書かれた仕組みをベースに「重力波通信システム」も設計できるかもしれません。SFのように思える話ですが、研究はすでに動き出しています。