薄い空気環境を薬で得る

従来の研究では、吸う空気自体の酸素濃度を下げる、いわゆる「ガスベースの低酸素療法」が中心でした。
しかし、装置の維持や安全基準の管理、酸素濃度の設定ミスによるリスクなどを考えると、臨床応用は容易ではありません。
一方、「血液側で酸素供給をコントロールする」HypoxyStatのような薬であれば、高地へ移住したり大がかりな装置を導入したりせずに済む可能性があります。
ただし、薬によって過度の低酸素状態が続いた場合、その影響をすぐにリセットできるか、また長期的に肺や心臓に負担がかからないかなど、安全面での検証が引き続き必要です。
今回の成果がまず期待されるのは、やはり重いミトコンドリア病の患者さんへの応用です。
しかし、研究者たちはその他の代謝疾患や心血管・脳疾患にも有望なヒントをもたらすと考えています。
実際、高地トレーニングがアスリートの持久力向上に役立つように、適度な低酸素状態には代謝改善効果などがあると示唆されています。
さらに、低酸素とは逆に「組織に酸素をより多く届ける」ためにヘモグロビンを操作する薬の開発も視野に入り、いわば“ガス療法の錠剤化”が今後さまざまな医療分野で注目される可能性があります。
「ガスベースの療法を“飲む薬”で実現する」という新しい発想はまだ初期段階ではあるものの、非常に有望です。
ジェイン博士らのチームは、より安全性の高い“次世代型HypoxyStat”の開発や長期的な影響の検証を進め、将来的には臨床試験へとつなげたいとしています。
もし実用化が進めば、患者さんはわざわざ山へ移住することなく、日常生活の中で“山の空気”の恩恵を受けられるようになるかもしれません。
今後の研究・開発の進展に大きな期待が寄せられています。