脳の「隠れた意識」を探る
過去数十年にわたり、脳損傷を受けた患者の中には、明らかな意識の兆候が見られないにも関わらず、EEG(脳波測定)やfMRI(機能的MRI)で脳の活動が確認されるケースが報告されていました。
これは「CMD(認知運動解離)」と呼ばれています。
最近の調査でも、意識不明と診断された患者の4人に1人はCMDであると報告されています。
こうした症状を聞くと、外部からの呼びかけを認識していて思考もできるのに、体で表現する運動能力は沈黙している「閉じ込め症候群(locked-in syndrome)」という症状をイメージしてしまいますが、CMDはここまで鮮明な意識がある状態ではないので混同しないよう注意しましょう。
ただこのCMDが確認できたとしても、それをどう評価し、治療につなげるかは明確になっていませんでした。
研究チームは、今回、そんなCMDの患者に見られるスリープスピンドルという脳波に着目しました。
スリープスピンドルとは、睡眠中に脳で発生するリズミカルな脳波活動のことで、記憶の固定や神経修復に関与すると考えられています。
今回の研究では、急性脳損傷を負った患者の脳波を測定し、スリープスピンドルの有無と意識回復の兆候が関係しているのではないかという仮説を立てて調査したのです。
まず、過去10年間に蓄積された脳損傷患者のEEG(脳波測定)データを分析しました。
意識を回復した患者と回復しなかった患者のEEGパターンを比較したところ、回復した患者には、睡眠時に特定の12〜16Hzのスリープスピンドルが多く見られることが分かりました。
次に、研究チームは急性脳損傷を負った患者150名を対象に、EEGを用いた長期的な観察を実施しました。
その結果、スリープスピンドルが一定の閾値(1分間に5回以上)を超えた患者は、6カ月以内に意識を取り戻す確率が80%以上であることが確認されたのです。
いつ目覚めるか見当のつかなかった意識不明患者に対して、この研究は特定の脳波パターンから回復可能性を定量的に評価できる可能性を示したのです。