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女性の托卵率が判明、10%説は正しくなかった (2/3)

2025.03.11 18:00:48 Tuesday

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女性の托卵率は1.6%程度だった

女性の托卵率が判明、10%説は正しくなかった
女性の托卵率が判明、10%説は正しくなかった / Credit:Maarten H.D. Larmuseau et al . Current Biology (2019)

研究チームがまず注目したのは、父系を正確にたどることができる戸籍や教会記録でした。

過去500年分におよぶ膨大な文書を丹念に読み解き、そこに記載された「父と子のつながり」が本当に血縁関係なのかを、Y染色体の型(ハプログループやSTRの特徴)を用いて照合したのです。

ここが非常にユニークな点で、単に今の親子で遺伝子を比較するのではなく、複数世代にわたる家系のデータを網羅的に集め、生きている男性同士が「○世代前の男性を共通の先祖にもつはずなのに、遺伝子型が合わない」という状況を発見できる仕組みを構築しました。

実際には、両親とも「婚姻内の子ども」として届けられた男性同士を中心に、計513組をピックアップし、共通の先祖がいるはずかどうかを系図から判断します。

そして、その先祖までの代数と矛盾するほどY染色体が異なっていれば、いずれかの世代で夫以外の男性が実父だった可能性が強まる――すなわち、托卵があったとみなすわけです。

これによって「系図上では父子関係」とされているペアの真の遺伝的な繋がりを推測する手法が完成しました。

分析の結果、全体としての托卵率は平均1~2%程度(約1.6%)と、世間で広く言われてきた「10%」より大幅に低い水準であることが確認されました。

一方で、すべての地域や人々が一様に1~2%とは限らず、大都市や人口密度が高いエリア、そして所得が低めの階層になるほど、数字が上昇する傾向が見られました。

たとえば大都市での托卵率は平均よりも高く2.3%となりました。

実際に、19世紀後半の都市部で低所得階層の家系を調べたところでは、約5.9%にのぼる事例が確認されています。

逆に、農村部や比較的経済的に安定した家系では0.4%程度の非常に低い水準にとどまるなど、社会経済的背景と人口密度が大きく作用していることが鮮明に浮かび上がったのです。

(※人間以外の霊長類で一夫一妻制と考えられるギボンやゴリラでは托卵率はほぼ0%に近いとされています。一方、チンパンジーやボノボのような社会では、托卵率が30~40%に達するケースも報告されています。また、鳥類においては種によって大きく異なり、平均的には10~30%程度ですが、一部の種では50%以上となる場合もあります。このことから考えると人類の結婚システムは比較的上手く機能していると考えられます)

こうした調査において、興味深いのは地域ごとの宗教や婚姻制度の違いです。

特にベルギーはカトリック色が強く、オランダはプロテスタントが主流ですが、両国間で明確な差が見られるわけではありませんでした。

むしろ、同じ国や同じ時代であっても「都会か農村か」「どの所得層に属するか」で大きなばらつきが出るという結果は、人間の性的行動や社会構造の複雑さを改めて実感させるものです。

こうして、婚姻内の父子関係を精密に辿るこのユニークな分析手法によって、「托卵率は一律に高いわけではないが、都市化や生活条件の変化によって上昇することがある」という事実が明らかになりました。

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