ドカ食いさせずに「フォアグラ」を作る方法を開発
ドカ食いさせずに「フォアグラ」を作る方法を開発 / Credit:Canva
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ドカ食いさせずに「フォアグラ」を作る方法を開発 (2/3)

2025.03.26 22:00:54 Wednesday

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フォアグラの闇と光:新技術でドカ食い育成を防げるか?

ドカ食いさせずに「フォアグラ」を作る方法を開発
ドカ食いさせずに「フォアグラ」を作る方法を開発 / FIG8は、食品パテの中にある脂肪がどのように分布しているかを見るために、CARS顕微鏡という特別な装置を使って撮影された画像です。 まず、画像では脂肪の部分が赤く表示されています。これは、脂肪が光を反射して赤く見えるためで、赤い部分はパテの中で脂肪がどこにあるかを示しています。一方、背景が暗くなっている部分は、水分や他の成分が多いエリアで、脂肪が少ない場所を表しています。 また、画像の中には、赤い「針状」や「線」のような細い形のものがあります。これらは、脂肪が固まって結晶となった部分を意味しています。つまり、脂肪が単に液体状態でなく、ある部分は結晶化して固まっているということです。 FIG8では、上の方にFGP(市販のフォアグラパテ)と、リパーゼ処理を2時間行ったサンプル(LTP2)が示されています。これらの画像からは、脂肪が細かく網目状に連なっている、つまり「連続した構造」が見受けられます。これは、脂肪が均一に広がり、口の中でなめらかに溶ける特徴を生み出していると考えられます。 一方、下の方にはリパーゼ処理を4時間行ったサンプル(LTP4)と、処理をしていないサンプル(LTP0)が示されています。ここでは、リパーゼ処理を4時間行ったサンプルでは、脂肪結晶がより多く、はっきりとした独立した形で見えることが分かります。つまり、長い時間リパーゼを作用させると、脂肪の一部がさらに分解され、固い結晶になりやすくなるのです。 このように、FIG8の画像は、リパーゼの処理時間が変わるとパテ内の脂肪の形や分布がどのように変化するかを直感的に示しています。これにより、どの条件が最もフォアグラに近い食感を生み出すのかを研究者が見極めるための重要な手がかりとなっています。/Credit:Mathias Baechle et al . Physics of Fluids (2025)

研究チームがまず行ったのは、リパーゼ(脂肪分解酵素)を使ってガチョウとカモの脂肪を部分的に切り替えることです。

具体的には、いったん脂肪を溶かしてリパーゼを加え、適切なタイミングで反応を止めます。 

こうすると、トリグリセリドという“脂肪の塊”が細かく分解され、フォアグラのように段階的に解ける性質をもった脂肪に変化する可能性が高まります。

続いて、この“リパーゼ処理脂肪”をレバーと混ぜてパテ状に整え、加熱殺菌などを施して試作品を完成させました。

ここでポイントとなるのは、温度が上がるにつれてどのように溶け出すかを入念に調べていることです。

たとえば、熱をかけながら脂肪が溶け始める温度帯や熱の吸収量を計測したり、特殊な顕微鏡でパテ内部をのぞいて「どれくらい大きい脂肪のかたまりができているか」を可視化したりと、まるで食材の“地図”を描くように観察を重ねています。

その結果、リパーゼを使った脂肪はフォアグラに近い融解パターンを示し、実際の舌触りも“なめらかにとろける”感覚が強いことがわかりました。 

顕微鏡画像でも、大きな脂肪クラスターがネットワークのように入り組んでいる様子が確認され、これがフォアグラ特有の食感を下支えする仕組みに似ているといえます。

さらに、硬さや粘りを数値化した実験でも、リパーゼ処理をしないパテより明らかにフォアグラらしい特性を示しました。

この研究が注目される理由 

最大のポイントは、「強制給餌で肝臓を肥大させなくても、ほぼ同等のテクスチャを目指せる」ところにあります。

市販の油脂や添加物で“なんとなく似せる”のではなく、酵素反応によって脂肪そのものの構造をフォアグラ風に作り変えるというアプローチは、まさに発想の転換といえるでしょう。

しかも、顕微鏡や温度計測などで「本当に同じように溶けているか」をしっかり確認した点が、今後の応用を大いに後押ししています。

動物福祉と食体験を両立させる技術として、非常に注目度の高い成果といえそうです。

次ページ本物超えは可能か?味・香り・倫理を揺さぶるリパーゼ革命の行き着く先

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